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BLOG校長ブログ

2023.04.15

ピッチクロックその後--続・入学式式辞 その3

入学式式辞にいつまでもこだわっているようで恐縮です。

アメリカメジャーリーグで大谷翔平選手の連日の活躍が伝えられています。そんなニュースの中に、大谷選手が「ピッチクロック対策をしている」というものがありました。

式辞で紹介したのは投球間隔の制限が走者なしの場合は15秒以内というものでしたが、新ルールでは走者ありの場合は20秒以内、打者が準備を整える前に投手がセットポジションに入るのも違反、などいろいろあり、大谷選手は誤解されそうな投球フォームを修正したようです。

この新ルールがどのくらい広がっていくのか、日本のプロ野球にはすぐに導入されないとしても、ワールドベースボールクラシック(WBC)で採用されれば日本代表の選手も対応を迫られる、などの見方もあり、また反対意見も見受けられます。

式辞の準備の時は思い浮かばなかったのですが後日、スポーツノンフィクションの名作を思い出しました。山際淳司「江夏の21球」です。プロ野球日本シリーズの名勝負の中でも特筆される試合のハイライトを、それまでにない切り口で描いた、その後のスポーツノンフィクションのスタイルを変えた作品と評価されています。

/「江夏の21球」が収録されている「スローカーブを、もう1球」。「野球雲の見える日」は1986年の作品集
1979年のプロ野球日本シリーズは広島対近鉄、3勝3敗で迎えた大阪球場での最終戦、広島のリリーフエース江夏豊投手が広島1点リードで7回裏、マウンドに上がった。ところが9回裏、ヒット、盗塁悪送球、満塁策をとって無死満塁の大ピンチを迎えてしまう。

この回の攻防を、江夏投手はもちろん近鉄の打者などのインタビューで構成した作品が「江夏の21球」。単に江夏投手の配球を追うだけではないドラマが描かれていますが、書くとこれから読んでみようという方の意欲をそいでしまうので、やめておきます。

結果的に江夏投手が胴上げ投手となった9回裏に江夏投手が投げた球数が21球、それがタイトルの所以で、その9回裏に費やした時間は約26分、と書かれています。投球間隔時間は敢えて計算しません。

もちろんいまの野球とは異なる要素がたくさんある時代ではあります。「とはいえ」です。山際は「江夏の一球一球をめぐって広島、近鉄両ベンチ、そしてグラウンドに立つ選手のあいだをさまざまな思惑が交錯した。野球とは、あるいはこの様々な思いが沸き立ち浮遊して交錯するところに成立するゲームであるのかもしれない」と書いています。

「江夏の21球」

ナンバー誌(Sports Graphic Number、スポーツ・グラフィック・ナンバー)の1号(1980年4月20日号)に掲載、その後、山際の作品集「スローカーブを、もう一球」に収録。私自身はナンバー誌で読んだかどうかは記憶がないのですが「スローカーブ」の方は、手元にある単行本(角川書店)の奥付を見ると「昭和五十七年(1982年)五月十日 四版発行」となっています。とにかく新米記者のころに読んでとても強い印象が残ったことは鮮明に覚えています。「こういうのもありか」と。

ナンバー誌創刊時の編集長が振り返っています。

「新しい雑誌なんだから新しいスポーツライターを育てて下さい。スポーツノンフィクションという、まだまだ未開拓のジャンルに切り込んでみようとという若手の文筆家は必ずいる」というアドバイスをもらい、スポーツとはあえて無縁のライターだった山際淳司を起用した。

江夏投手が9回裏に投げた21球について、ビデオを見ながら1球ずつ「なぜこの球は内角カーブのストライクなんですか」「捕手のサインに一度首を振った後、ストレートを投げたのはどうしてですか」……と、素人風の質問を続けてみよう、ということにした。その成果が「江夏の21球」である。

/ナンバー誌のベストセレクションⅠ(左)、編集長の話は「はじめに」から。「ナックルボールを風に」(角川文庫)には「江夏の21球」の後日談ともいえる「エース」という作品が収録されています

ネット販売で検索すると「江夏の21球」のタイトルで2017年、角川新書から出されているようです。こちらの方が手には入りやすいでしょう。