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BLOG校長ブログ

2023.04.17

ヒッタイトに魅せられて

1学期の授業が本格的に始まりました。2年生の世界史の授業がこの時代にさしかかっている、ということで、最近読んだ中でのお薦め本の紹介です。

ヒッタイトに魅せられて

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トルコで発掘調査を続けるアナトリア考古学者・大村幸弘さんに、ヒッタイトを舞台にした作品がある女性漫画家・篠原千絵さんが話を聴くという、思いもよらなかった本です。

トルコの遺跡で一生涯をかけて発掘にあたり、国際的にも高い評価の研究成果をあげている日本人学者がいることを、恥ずかしながら知らなかったし、ヒッタイトをテーマにした漫画、いよいよ知りませんでした。タイトル通り「ヒッタイトに魅せられた」2人のやりとりに、ぐいぐいと引き込まれます。

さてヒッタイト、辞書では「ヒッタイトは民族名で紀元前1750年ごろ、トルコ・アナトリア地方で鉄と重戦車を駆使してエジプトと古代中近東世界を二分するほどの帝国を築いたが、前1200年ごろ滅びた」などと説明されています(手元にある「角川世界史辞典」によりましたが、なんとこの項目の筆者はこの大村幸弘先生でした)。

突然のように興って、当時最先端技術でもあった「鉄」をあやつって大帝国となりながら、あっという間に滅びてしまう。その原因もよくわからない、そんな「謎」の民族、国家に「魅せられた」2人のやりとりがおもしろくないはずがありません。

大村先生は研究者を志し、トルコ・アナトリアで発掘を始めるときに、恩師から「文化編年を目指さなければならない」とアドバイスを受けます。

遺跡の発掘というと、研究者の自分の専門とする分野、興味関心の強い時代に関わるところだけを発掘の対象とすることが多いなかで、ひとつの遺跡を、上から下まで丹念に掘り下げて歴史の積み重なりを正しくとらえ、当時の世界を復元し、歴史の流れを正しく把握することが大切だと教えられた、と振り返ります。途方もなく時間のかかる仕事、考古学者が一生をかけて取り組む価値のある大仕事なんだとも。

大村さんが発掘を始めたころ、他に日本人研究者はおらず、トルコでの発掘調査の中心だったドイツの研究者が「日本人が(発掘)やるんだって? まあ、2,3年続けばいいほうだ」との陰口を叩いているのをたまたま聞いて、「死ぬまでやってやるって、心底そう思いましたよ」。

この決意があったからでしょう、発掘調査を認めてもらうためのトルコ政府や地方自治体との交渉、ヨーロッパを中心にたくさんの国の研究者の真剣勝負の場である学会での発表、さらには実際に発掘現場で作業をしてくれるトルコの人たちとの日常でのやりとり、後進の育成などが語られていきます。

このような大村さんの仕事ぶりは、将来考古学者になりたいと考えている若いみなさんにとって大いに参考になるし、励みにもなります。また、考古学、歴史学などにとどまらず、海外で働くということを考えていくうえでも、示唆にとんでいます。

ヒッタイトが「鉄」によって大帝国となる、突然のように滅びる、そこについては大村さんの長年の研究に裏打ちされた説明は説得力があります。「アナトリアの高原は夏から秋にかけて一定方向から強い風が吹き続ける。鉄を生産するには高温が欠かせないが、フイゴだけでは不十分、この強い風を利用した可能性が高い」と推測します。

そのうえで、青銅器から鉄器への移行とは、人類が生んだ最大級のイノベーションだったといっても過言ではない。鉄はいまの核兵器に匹敵するイノベーションだったはず。核兵器を持ったということで、エジプトがヒッタイトを対等な大国として扱わざるをえなくなった」と、現代になぞらえて説明しています。

「アナトリアのことを世界史のへそと表現します。東西から文明が次々に去来し、それが世界史としてアナトリアの大地に積み重なっている。言語や文化の異なる多様な集団を包摂しなければ統一国家がつくれない場所だった」

現代のトルコや中近東の国々・地域の課題でもありますね。

このブログのテーマ別にカットを用意しました。本を紹介する時は「今日の付箋」。
本を読んでいて気になったところに付箋(ふせん、ポストイット)を貼ることがありますよね、それにちなみます。デザインは海老根捺稀先生(美術、2-A3担任)です。この後も次々と登場します。
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