2023.05.01
先日訃報が目にとまりました(毎日新聞4月21日朝刊)。
小池滋さん、ディケンズなどの研究や翻訳をはじめとするイギリス文学の研究者で東京都立大、東京女子大などで教鞭をとった方ですが、私にとっては鉄道史に興味を持つきっかけを作ってくれた一人です。
本棚から著作が次々と見つかりました。代表作とも言えるのが「英国鉄道物語」で1980年、毎日出版文化賞受賞。写真にある1冊「絵入り 鉄道世界旅行」の筆者紹介によると「19世紀英文学研究で知られるが、同時に、ただ汽車に乗って揺られているだけで満足という無類の鉄道好き。この二つが幸福な結婚をとげて名著『英国鉄道物語』が生まれた」とあります。
いまでこそ鉄道ファン、いわゆる「鉄ちゃん」は市民権を得つつありますが、かつては「いい大人が」と揶揄される時代もありました。鉄道に乗ることそのものが楽しいと思えれば性別、年齢、職業は関係ないのですが、小池さんのような大学の先生の中にも鉄道ファンがいるということが、私に少しの「安心感」を与えてくれたのかもしれません。
電車に乗るのが大好きという「乗り鉄」、写真が「撮り鉄」、さらには「模型鉄」などがよく知られていますが「歴史鉄」あるいは「読み鉄」はどうでしょう。ある路線がどのようないきさつで計画・敷設され、それによって沿線がどのように発展あるいは衰退したのかなどを、いろいろな本や資料を読んで知る。小池さんの著作を通じて、イギリスをはじめとする世界の鉄道事情、さらには鉄道を通じて地域の歴史が垣間見られる面白さを教えてもらったともいえそうです。
鉄道にまで「教養」を持ち込むのかと叱られそうですが、路線の歴史を知ることで乗る楽しみも増えるのではないでしょうか。
大学の先生と聞くとその文章は難しいと思われそうですが、国語学者で数々の辞典を編纂している中村明さんの「日本の作家 名表現辞典」に小池滋さんの作品も取り上げられています(鉄道ものではないエッセイですが)。そこでは「(小池滋さんの)随筆には、英国の心をよく知る人であることを思わせる、巧まざるユーモアがあり、独特の香気が漂う」と評されています。
「鉄道忌避伝説の謎 汽車が来た町、来なかった町 」 (青木栄一、吉川弘文館、歴史文化ライブラリー)
明治時代、急速に鉄道網が広がっていく中で、江戸時代に繫栄した街道筋の宿場町などが、鉄道ができることで商売に差しさわりがあると鉄道建設に反対した、その結果、多くの鉄道路線が街はずれを通ることになった、という話があちこちに残っています。筆者は丹念に資料を追い、それが正しいのか検証していきます。結論は、タイトルに「伝説」とあることから推測してください。
「鉄道が変えた社寺参詣 初詣は鉄道とともに生まれ育った」 (平山昇、交通新聞社新書)
国内の私鉄の多くが神社やお寺へのお参りへの「足」として発展したという歴史を振り返ります。鉄道側にとっても社寺側にとってもメリットがあったわけです。加えて今では多くの人が出かける初詣も、この鉄道の発達、鉄道会社の仕掛けがあって明治以降、急速に広がったということを明らかにします。初詣と聞くと相当古くからの伝統のように思いがちですが、そうではなかったのです。