2023.05.09
出勤時に聞いているNHKラジオ番組で「きょうは何の日」というコーナーがあり、その日に過去、どんな出来事があったかを紹介してくれます。5月9日の放送では1983年のこの日、ローマ法王がガリレオに対する宗教裁判が誤りだったことを認め、謝罪した、とありました。
科学と宗教との関係は大変難しいテーマですが、そのものすばりのタイトル「科学者はなぜ神を信じるのか」(三田一郎)という本が結構読まれているようです。私が読んだ版によると2018年6月初版、22年2月11刷となっています。宗教団体が絡むような本ではなく、科学書として定評のある「BLUE BACKS(ブルーバックス)」(講談社)の一冊で、シリーズのラインナップにはない分野で話題になりました(筆者自身が「ブルーバックスとしてはやや異色の趣向」と書いています)。
ここではもちろん「科学者」の一人としてガリレオ(1564~1642)もとりあげられています。開発初期の望遠鏡で天体観測を行い、惑星・衛星の動きの観察などから地球が太陽の周囲を公転していると考えた方が合理的だとする論文(地動説)を発表したわけですが、地動説は聖書の記述と矛盾するといって批判する神学者が多数おり1633年、カトリック教会の異端審問(裁判)でガリレオは自身の著作を禁書とする処分を受け入れ、終身刑が言い渡されました(実際の投獄は免れたとのこと)。
このガリレオ裁判について1979年、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世が誤りであったことを認め、真実を調査する委員会が設置され、裁判から350年後の1983年5月9日、法王がバチカンで開かれた集まりで謝罪しました。
「科学者はなぜ神を信じるのか」の著者、三田一郎さんは素粒子物理学を専門とする博士でカトリック教会の助祭(教会の位階の一つ)でもあります。
この謝罪について三田さんは同書で「この謝罪がなければ多くの科学者が教会を離れていったでしょう。それは私も同じです。科学に捧げてきた人生が、「異端」とされてしまうからです」と評価しています。
「万物の創造主である神はなぜ宇宙をこのように創ったのか、それを知るには「数学」という言葉で書かれた「もう一つの聖書」を読まなければならない――ガリレオはそう考えていました」「コペルニクスやガリレオの発見は教会が説く神の教えに疑問符を投げかけはしましたが、彼ら自身は、神の存在を微塵も疑っていませんでした」。そんなガリレオが異端であってはいけない、というわけです。
三田さんは同書の「はじめに」でこう書いています。
「科学者のなかには、神の存在を信じている人が少なくありません。これはとても不思議なことです。神を否定するかのような研究をしている人たちがなぜ、神を信じることができるのでしょうか? この素朴な疑問について考えることが、本書のテーマです」
そして、神との関わりが深い宇宙論の進歩に貢献してきたコペルニクス、ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルク、ディラック、ホーキングといった科学者たちが科学と神の関係をどのように考えていたかを綴っています。宇宙論の「歴史」を学ぶにもいい本です。
「このように神という視点を持って科学を眺めることで、そもそも科学とは何かという問いについても、何らかの答えが見えてくるのではないかと思っています」と三田さん。
私にはまだまだ答えは見えませんが、大変勉強になった1冊でした。