2023.05.16
作家の原寮さんが亡くなり、新聞各紙で報じられました(5月11日毎日新聞朝刊など)
毎日の訃報記事によると1988年「そして夜は甦(よみがえ)る」でデビュー、翌年2作目の長編「私が殺した少女」で直木賞を受賞。ファンがまとめたネットサイト、ブログなどをみると、デビュー2作目で直木賞というのも珍しく、その後、直木賞でミステリの受賞が増えていった、とのこと。直木賞は人気作家への大きな一歩であることが多いのですが、その後発表した長編はわずか4作(デビュー作含めて長編5編)。本棚をさぐると何冊か出てきました。
ほぼ作品発表直後に読んでいるので手元にあるのはすべて単行本。文庫本も出ているようです。ほとんどが2段組で「……少女」は270ページほど。最近こんなミステリの大作はなかなかお目にかかれない。私も今ではひるんでしまいそうです。
長編、短編含め発表した小説は私立探偵が主人公。その私立探偵は東京・西新宿に事務所を構える、「沢崎との苗字のみで下の名前は最後まで出てこない」、そうそう、そうでした。
朝日新聞の訃報記事には「米作家レイモンド・チャンドラーの影響を受けた作風で日本のハードボイルド小説界に新風を巻き起こした」とあります。確かに原さんは、作品出版社の公式サイトでのインタビューでは、何度もチャンドラーに言及しています。
チャンドラー、ハードボイルド小説ということで、何冊かは読みましたが、日本で言うところの推理小説・ミステリ、あるいは探偵小説のファンと自称するからには、当然読まなければならない、読んでおかなければならない作家、作品という強迫観念、義務感、通過儀礼……何しろ棚から見つけた「湖中の女」の発表が1943年、「プレイバック」が1958年(読んだのはいずれも1990年)、描かれる時代が古く舞台も遠い国の話で身近に感じられず、また、「ハードボイルド、男の生き方」みたいなことにはあまり関心がなかったので、チャンドラー作品には正直、強い印象は受けませんでした。
チャンドラーの「Farewell, My Lovely」(1940年)の最初の邦訳時のタイトルは「さらば愛しき女よ」(ハヤカワ・ミステリ文庫)。訳者の清水俊二さんは数多く推理小説の翻訳をてがけています。村上春樹さんが訳して「さよなら、愛しい人」(早川書房)。本がきれいなままなので、たぶん読んでいない。やはりチャンドラーは遠かったか……
さらに、タフな主人公が一つの指標となるハードボイルド小説は、小説のジャンルとしての定義付けは難しいとも思います。ただ、探偵ものとしては、逢坂剛作品に登場する岡坂神策のシリーズ(「十字路に立つ女」など)、東直己の「ススキノ探偵シリーズ」(「探偵はバーにいる」など)はなかなか読みごたえがあり、おもしろかったです。
直木賞作家である逢坂さんはこの探偵岡坂が主人公のシリーズにとどまらずスペインや欧州を舞台に近現代史の謎に迫る壮大な作品群や、不気味な犯人と公安警察との闘いを描く「百舌シリーズ」、悪徳警官の「禿鷹シリーズ」、刑事迷コンビがドタバタを繰り広げる「御茶ノ水警察」もの、さらには時代小説も「重蔵始末シリーズ」、火付盗賊改・長谷川平蔵を主人公にした作品など実に幅広く多彩で、何を選んでもまず「はずれ」はありません。
ミステリ、探偵小説、ハードボイルド、警察小説などなど、いろいろなネーミング、分け方があるでしょうし、「分類そのものには意味がない、作家の好き嫌いで読む本を選ぶ」もありでしょう。そもそも、こういった「人が殺される、事件に巻き込まれる」的な小説は嫌い、もあるでしょう。小説なので好き嫌いがあってもっともです。
歴史の本ばっかり、ではなく、エンターテインメントもちょこちょこ読んできました、ということで紹介させていただきました。