2023.05.27
辞典・辞書がでてきたので(17日、18日、24日)、サンキュータツオさんの著作と辞典・辞書の「世界」で少し。
「学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方」 (角川文庫、2016年)
「国語辞典を食べ歩く」(2021年)
サンキュータツオさんについては朝日新聞の読書欄で、書評委員としての「書評」を時々読んでいました。きちんとした内容で、正直お笑いの人というくらいの知識しかなかったので驚きました。そして、相次いでこの2冊を続けて読んで「影響を受け」、さっそく何冊か新しい国語辞典を購入しました。
国語辞典によって、一つの言葉の説明がどれだけ異なるかを次々と例示します。「食べ歩く」では、特に食や料理に関わる言葉を比べています。そのうえで、辞典にはそれぞれ得意分野がある、特徴がある、ということを繰り返し強調します。若者を中心に使われる「新しい言葉」を積極的に採用する辞典、例文を多く載せることにこだわる辞典、などなどです。よってサンキューさんは、辞書はできるだけ複数持つようにしたい、と呼びかけるわけです。
◆「新解さんの謎」(赤瀬川原平、文藝春秋)
サンキューさんの本でも当然とりあげられていますが、「新明解国語辞典」は「新解」さんと親しみを込めて呼ばれます。赤瀬川さんのこの本がかなり影響しているのではないでしょうか。他の辞典に比べて思い切った解釈、独特の説明が多いとされ、「これでないと」というファンが多いようです。最新は第八版、新版が出るたびに購入している人を知っています。
前衛芸術家、作家として知られた赤瀬川さんは、街歩きをしながらの路上観察で「どうしてここにあるのか、どのような目的をもっているのかわからない」といった物を「トマソン」と名付けたことでも知られます。赤瀬川さんの「おもしろがる」感性に応える辞典だったのでしょう。
「尾辻克彦」名で発表された短編「父が消えた」で1981年、芥川賞を受賞しています。
ちなみに「新明解国語辞典」を発刊しているのは三省堂、この赤瀬川さんの著書の発行は文藝春秋なので、辞書の宣伝といった下心? はありません。(「トマソン」の由来については某プロ野球チームファンに叱られそうなのでここでは触れません)
◆「みんなで国語辞典! これも、日本語」(北原保雄・監修、大修館書店、2006年)
北原さんは「明鏡国語辞典」(大修館書店)の編者です。同辞典の新装発刊を記念して、気になる言葉に自分なりの意味と解説をつけて応募してもらうというキャンペーンを実施。つまり、みんなが辞典編集に関わるという試みで、その中からピックアップしたものが、分野ごとに、一般的な国語辞典と同じように並びます。応募総数11万超、約1300語を収録。すごい。
「学校のことば」という章があり「異装」「置き弁」「スポ薦」などはかろうじてわかりますが、当方、知らない言葉が続出、でも大丈夫、「若者のことば」の章では「多分、来年は通じません」と書き加えられているので、学校の言葉も消えていき、また新しい言葉が出てくるのでしょう。
◆「舟を編む」(三浦しをん、光文社)
辞書つくりの現場を舞台にした小説ですが、三浦さんの他の作品同様、きちんとした現場取材があってのものなので、かなりリアルに現実を反映しているのでしょう。出版社で営業部から辞書編集部に異動になった若手部員が、ベテラン部員の指導影響を受けながら、辞書つくりにのめりこんでいきます。映画、テレビアニメのほうがよく知られているかもしれませんね。
「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編(あ)んでいく」という意味でこの書名が付いているようです。
◆「100年かけてやる仕事 ― 中世ラテン語の辞書を編む」(小倉孝保、プレジデント社、2019年)
こちらはノンフィクション。 イギリスで100年かけて完成した「中世ラテン語辞書」。話し言葉としてはすでに使われていない言葉の辞書を誰がどういう動機で作ろうとしたのか、当然、儲からないだろうし。そしてその編纂(言葉集め)に携わったのはボランティアの人たち。100年かかったということは、そのボランティアの人たちのほとんどが辞書の完成を見ることがないわけで、それでも続けられたのはなぜなのか。
毎日新聞社の特派員としての勤務の傍ら関係者へのインタビューを重ねた著作です。新聞社OBとして褒めるわけでなく、読ませます。小倉さんは現在、紙上で毎週金曜日のコラム「金言」を担当しています。
おもしろく読んだ本だったのにサンキュータツオさんの労作だったとは。この時に、サンキュータツオさんの仕事のすごさに気づいてなければいけませんでしたね。反省です。