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BLOG校長ブログ

2023.05.30

「英検週間」にちなんで その2

英検週間(6月2日まで)真っ最中でもあり、英語・外国語を学ぶこと、外国語との付き合い、そしてその先についての興味深い本をいくつか。

『字幕屋に「、」はない』(太田直子、イカロス出版)

『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』(太田直子、岩波書店)

外国映画で映像の下にでてくる訳、字幕。テレビで放映される映画は声優さんの吹き替え版もあるので、映画館やDVDで観ることが多いですね。

大学でロシア文学を学びながら映画団体のアルバイトで字幕制作を手伝い、字幕のおもしろさに目覚め、フリーの字幕制作者(ご本人は「字幕屋」と書いていますが)で30年超のキャリアを持つ太田さん。

『字幕屋に「、」はない』(長いので以下『、はない』とします)、1本の映画の字幕数は平均1000とも2000とも言われるそうで、実際に字幕をつくる際の舞台裏というか苦労話が盛りだくさんに出てきます。

例えば事前の準備として欠かせないが、スポッティングと呼ばれるセリフの長さを測る作業。というもの字幕には1秒=4文字という字数制限があるからだそうです。字数が多いと目で追いきれないということですね。そこで以下のような具体例があげられます。

「I’m not lying」を「嘘じゃないわ」と直訳するとピッタリと思いきや、このセリフの長さは1秒以下、つまり3~4文字の字幕にしなくてはいけない。「嘘じゃないわ」は6文字で多すぎます。そこでもうひとひねりしてつくった字幕は「本当よ」

「You didn’t konw?」「知らなかった?」、訳としてはまったく問題はなさそうですが、やはり長さは1秒以下で6文字は長すぎ。そこで「初耳?」

うまいですねえ。

ギャグとは言え、使うのが適切でない言葉をどう訳すか、ひらがながいいのかカタカナがいいのか、外国では日常的ながら日本ではなかなかピンとこない単位を換算する悩ましさ、などなど、日々の苦労苦心が語られていきます。

ところでタイトルにはいっている「、」(句読点の読点のこと)ですが、「映画の字幕には句読点がない、という事実は意外に知られていないようです」と太田さん。「えっ、そうなの」ですよね、意識したことなかった。

「われわれ字幕屋にとっては長年染みついた当然の決まり事なのですが、ふつうに映画を観ているお客さんはそこまで意識しないでしょう」と続くので「よかった」。ではどうするか、映画の字幕では句読点の代わりにスペースを用いるとのこと。
ではなんで句読点がないのか、太田さんがあれこれ考察します。結論は、やめておきます。

太田さんはこうも言います。

「字幕屋は英語(外国語)を耳で聴き取って翻訳している、という恐ろしい誤解をしている人がたまにいますが、とんでもありません。ちゃんと文書化された台本がなければ、お手上げです。翻訳を稼業にしながら(英語を)全然しゃべれないことを恥じてはいますが、隠していません」。

その一方で「コミュニケーションツールとして英語力を高めるのはいいことだと思います。けれどその一方で、日本語の繊細な表現力を失ってほしくない、とも思います」

『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』(以下『渡世』とします)も「映画の字幕翻訳について、もっと知ってもらいたい」(あとがき)という内容で、字幕作りの工程、作業などがかなり細かく書かれています。

『渡世』は2013年4月発行、『、はない』は同年9月発行、ほとんど同時期です。『、はない』は2004年から雑誌で連載してきたエッセイをまとめたものとのことなので、そのエッセイを読んでこれは面白いと思った『渡世』発行・岩波の編集者が太田さんに執筆を依頼したに違いない、と勝手に想像してしまいました。

『、はない』は雑誌連載だったからでしょうか、リラックスした書きっぷりでダジャレなどもあちこちに。対照的に『渡世』は結構硬い書き方で、やっぱり発行元の岩波書店を意識したか。これも勝手な想像ですが。

ところで、同じような内容の本なのに何で立て続けに購入したのかしら。

映画翻訳、字幕つくりについては清水俊二さん、戸田奈津子さんという先達がいます。お二人の著書も多数あります。