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BLOG校長ブログ

2023.06.03

締めは「エンタメ翻訳」ー英検週間にちなんで その5

英検週間もいよいよきょう3日(土)が受検日で1週間が終わります。自身が目標とする「級」を定めてそこに向かって努力するということが大事なわけで、より広くとらえると、何か一つの目標に向かって取り組み、そして「やりきる」ことをぜひ経験してほしい、そんなことを生徒に伝えてください、と先生方にお願いしてきました。

さて本番、みんなの結果はどうでしょうか。検定は「相対評価」でなく「絶対評価」です。誰か別の人がいい成績をとったので自分が相対的に成績が悪かった、ということはないわけで、私たちの願いは「全員合格」です

「英検週間にちなんで」も今回で一区切りとします。延々と失礼しました。英語字幕(5/30)とか言語学(6/1)とか通訳(6/2)とか少し「変化球」だったかもしれませんが最後は「翻訳」、といっても「文学」には手が出ないので、「ミステリ、エンタメ」で。

「日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年」(田口俊樹、本の雑誌社、2021年)

筆者の田口さんは大学卒業後、高校の英語の先生をしていて、友人の海外ミステリで定評のある出版社の編集者からの声かけで翻訳をするようになったそうです。この本では、40年間に自分が翻訳して印象に残っている作品20編ほどを改めて読み直して、なんでこんな訳にしたんだろうなど、タイトルにあるように「ざんげ」の翻訳生活を振り返る仕立てになっています。

この著作で取り上げられている作品をはじめ、田口さんが手がけた翻訳本を何冊か書棚から探し出しました。海外ミステリ、冒険小説、スパイ小説では人気のある作家の作品ばかりで、「ざんげ」の翻訳だったら出版社、編集者が依頼しないでしょうし、40年間も続けられるはずはないでしょう。

取り上げたミステリ作品を読んでいないとピンとこないところもありますが(私も読んでいたのはそんなにありませんでした)、英語の原文をどう理解して、どういう日本語にしたらいいのか、翻訳家の苦労が垣間見られるところがいくつもあります。

「神は銃弾」(ボストン・テラン、文春文庫、2001年)

主人公が何度が口にする決めセリフ「You’re crossing over.」、「crossing over」は文字通りなら「越える」ですが、作中では、対決した相手に向かって「おもえはもう死んだも同然だ」みたいな意味で使われる。「越えるという意味を生かすなら、おまえは三途の川を越えている、もありうるが、アメリカ人だし、しっくりこない」などさんざん悩んだ末に、思いついたのは「おまえはもう終わってるんだよ」。物騒な例で申し訳ないのですが、作品がそもそもハードボイルドなので。

そのハードボイルドといえば切ってもきれないのが「銃」とか「警察」。
ショットガンの弾丸は「口径」とは言わず「番径」というのに、読み返すと「口径」ばかりとか(えっ、そうなんですか、そのくらいいいんじゃないですかと思ってしまいますが)。
もう一例、「downtown」。一般的には繁華街、下町といった意味ですよね、ところが「警察」の意味もあるのだそう。刑事が容疑者に「ダウンタウンに行こうぜ」というのは「繁華街に遊びに行こう」ではなく、おおよそ「署までいこう(同行しろ)」との意味で、田口さんは知らずに翻訳の先輩にたしなめられたそうです。かなり限定的な意味、スラングなのでしょうが、ミステリー、ハードボイルドの作品ならではの注意が必要ということなのでしょうね。

上記のように田口さんの翻訳作品をひっぱりだしてきたのですが、著書でも紹介されている「刑事の誇り」(マイクル・Z・リューイン、ハヤカワ・ミステリ、1987年)、主人公の刑事、リーロイ・バウダー警部補のシリーズ「男たちの絆」(1988年)、本の痛みぐあいをみると、読んだのか自信がありません。でも2冊あるので、おもしろかったからシリーズで読んだのか。

余談ですが、推理小説とか時代小説とかは読んでいてのリズムが大事、手をとめたくないし、そもそも知識を求めて読んでいるわけではないので、気になったところのページを折ったり、ましてや付箋を貼ることはまずないです。みなさんそうですよね。
なので、あとからふりかえってその本をどう読んだかは、本が綺麗かどうか(ページが折ってあるかないかなど)が判断の一つの目安となります。読み終わった年月日を書き込むようにはしているのですが、やはり時々忘れているので。

イギリスのスパイ小説といえばジョン・ル・カレで「パナマの仕立屋」は1988年発行、これもどうも本が綺麗だ……ジョン・ル・カレの名前にひかれて購入したがそのままだった気配濃厚。

同じイギリスで冒険小説家といえばジャック・ヒギンズ、一時、ヒギンズはかなり夢中になって読んだので、この「地獄の季節」も読んでいると思うのですが、冒険小説は読んでスカッとすれば自分的には満足なので、ストーリーとかはあまり覚えていません。大丈夫か、本当に読んだのか……

そして「神は銃弾」、これは「積ん読」間違いなし。言い切ってもしょうがないのですが。田口さんの訳者あとがきによると「正直なところ、本書ほど訳出に難渋した作品もない。原文がエンターテインメントとはおよそ思えないほど難解なのである」と告白しています。だからといって翻訳していただいた日本語作品を読まなかった言い訳にはならないのですが。

なんか、紹介しながら読んでない本ばかりで恐縮ではありますが、こと、これらエンターテインメント作品、海外翻訳作品はとにかくあっという間に市場から消えていきます。いまは結構ネットで探すことができますが、この手の作品を夢中になって読んでいたころは、気になったら買っておく習慣だったと、またまた言い訳しておきます。