2023.07.11
「銀」の話の続きというわけではないのですが、メダルの色でおなじみの「金銀銅」すべてをまとめて教えてくれる本があります。
本の帯に「石見銀山、世界遺産に登録」ともあるので、やはり石見銀山を意識した発刊でしょうか。
まず「金」です。13世紀のイタリアの冒険家、マルコ・ポーロがその著作「東方見聞録」で日本を黄金の国と呼んだ、つまり「金」が豊富にあることを指しているわけで、仏像や建築に金がふんだんに使われていることを考えても違和感はないし、金鉱山(金山)もいくつもあったことがあげられます。
「銀」については、石見銀山の例をあげれば、日本が銀の国でもあったことはわかりやすいですね。「銅」では弥生時代から青銅製品が造られていたことを示し、筆者の村上さんは「金・銀・銅を筆頭に、日本はかつて世界でもまれな金属の国だった」とまとめています。
この三つの金属が国内でどのように産出され、何に使われ、さらにそれが社会経済をどのように変えていったのかが時代を追って説明されています。石見銀山の紹介の章は「銀の王国 石見銀山--世界をめぐった日本の銀」と見出しがついています。これだけで石見銀山の位置づけが十分わかります。
江戸時代、列島で使われていた貨幣は江戸が金貨、上方(近畿・関西)が銀貨中心であることはよく知られていますが、この理由として「早くから拓けた銀山が西日本に多いことや、日本では古くから銀が使われており、先に文化が開けた上方のほうが銀を中心に経済が動き、関ケ原の合戦以降に金貨ができたことが江戸で金を中心とする要因となった」と説明されています。
村上さんは、鉱山は地球から金属を取り出すことで、実は地球環境保全の立場とは相反する行為であり、「地球環境を犠牲にして人類は発展してきたといっても過言ではない」と注意喚起します。
IT機器の普及などもあって金銀の需要は減っておらず、すこし前、携帯電話やパソコンを廃棄するにあたって機器の内部で使われている金属を回収して再利用することが「都市鉱山」などと言われました(最近はあまり聞きませんが)。地球環境とのかねあいで限りある資源を有効利用しようということで、この著作でも触れられています。大事な視点ですね。
「新素材」ときくと現代の科学技術に結び付いた「モノ」を思い浮かべがちですが、歴史の中でその「モノ」が発見されたり開発された時は「新素材」であったわけで、この本で最初に取り上げられている新素材は「金」です。
アンダーラインが引かれているところを見直すと「現在までに採掘された金の量は、世界中全て合わせても、オリンピックプール三杯分ほどでしかない」、えっ本当かと疑ってしまいますが、筆者の佐藤さんもこう続けます。「そんなバカなと思うような数字だが、金は水の二十倍近くも重たいため、重量のわりに嵩(かさ)が非常に小さいことも原因だ」と。
確かに金はかなり薄く延ばすことが可能で、京都・金閣寺の外壁には金箔が貼られていますが約20キロもの金を使いながら金箔の厚さは約0.5マイクロメートルだそうです。
このほかに取り上げられる新素材の「陶磁器」や「鉄」などは想像がつくとことですが、氷河期や寒冷期を人類が生き延びることができた寒さに強い皮膚に欠かせない「コラーゲン」は「動物が生み出した最高傑作」と評価されています。なるほどですね。
このほかに「文化を伝播するメディアの王者」として「紙」がとりあげられるほか「炭酸カルシウム」「絹」「ゴム」「プラスチック」などが列挙されています。
佐藤さんは「木材や陶器のように、これひとつであらゆる用途に対応できるといった材料は、もうそうそう出てこないと思える。すでにプラスチックがそうであるように、性質の異なる材料が多数創り出され、用途に合わせて使い分けられる形が増えていくことだろう」と歴史を振り返り、これからを見通しています。