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BLOG校長ブログ

2023.07.12

「自然」「もの」から歴史をみる その5

「自然」や「モノ」を切り口に歴史を見る手がかりになる本をいくつか紹介しました。ズバリ「〇〇〇の歴史」のようなタイトルがついているとわかりやすいですよね。書棚から目についたものを抜いてきました。結構古い本もあるのですが、その内容は充実しています。

学校での世界史の学習にも役立ちます、というすすめ方がいいかどうかはわかりませんが、世界史への興味をかきたてるのは間違いないと思います。

『時計の社会史』(角山栄、中公新書、1998年)

奥付をみると1994年初版、98年10版なのでかなりのベストセラーですね。機械としての時計の技術的発達という「時計そのものの歴史」と同時に、時計によって社会がどう変わってきたかを考察します。

例えば、正確に時を刻むことができて労働時間をきちんと決められる、労働時間に応じた賃金が支払われることが産業革命から資本主義の発達には欠かせない条件であったり、地方ごとにバラバラだった時刻の決め方を標準時で統一し、きちんとした時計があってきめ細かな列車の運行が可能になり、鉄道が発達する、観光などが盛んになる、といった具合。

筆者あとがきを引きます。

「すなわち時計という機械の歴史ではなく、時計がつくる知的で抽象的な人工の時間が人々の生活とどう関わってきたかを、比較社会史的に考えてみたかった」

『茶の世界史』(角山栄、中公新書、2001年)

同じ筆者でやはり中公新書、こちらは1980年初版で手元にあるのは2001年26刷、大ベストセラーですね。本をチェックすると結構きれいなまま、きちんと読んだかな、積読かも。

『ジャガイモの世界史 歴史を動かした「貧者のパン」』(伊藤章治、中公新書、2008年)

これも中公新書、「〇〇の世界史」と意識して発刊しているのですね。こちらには2008年に読了の日付が書き込まれていて、アンダーラインもかなりひかれています。

南米で生まれたジャガイモが世界に広がり、「ジャガイモは歴史の曲がり角や裏舞台で大きな役割を果たしている」として、フランス革命、米国大統領、産業革命、足尾鉱毒事件などがあげられています。
アイルランドの農民はジャガイモを主食としていたものの飢饉で多くのアイルランド移民が米国に渡った。その子孫が第35代米国大統領のJ.F.ケネディ、といったように。

以下のような部分に赤線が引いてありました。

「ジャガイモのヨーロッパでの普及は、迷信の壁に大きく阻まれた。ジャガイモがもたらされるまで、ヨーロッパの多くの地方には、地下の茎から取れる食用植物はなかった」
「さらにキリスト教文化圏ではジャガイモは聖書に出てこない食物。これを食すれば神の罰が下るとの文化的偏見も加わる」

『砂糖の世界史』(川北稔、岩波ジュニア新書、2006年)

1996年1刷、手元にあるのは19刷、これも長く読み継がれていますね。ジュニア新書ですが、筆者の川北さんは「世界システム論」を提唱したウォーラーステインの研究者として内外で高い評価を得ている先生なので、面白くないはずがありません。

世界中の誰からも好まれる砂糖を川北さんは「世界商品」と名付けます。世界中のどこでも必要とされるので、それを独り占めできれば、大きな利益をあげられる、だから「16世紀いらいの世界の歴史は、そのときどきの世界商品をどの国が握るか、という競争の歴史として展開してきた」。

モノで歴史をみる、を大上段に掲げてあれこれ書いてきましたが、『砂糖の世界史』のエピローグ「モノをつうじてみる世界史--世界史をどう学ぶべきか」で川北さんがわかりやすくまとめてくれていました。

「モノをつうじて歴史をみることで、どんなことがわかるのでしょうか」
「ひとつは、そうすることによって、各地の人びとの生活の具体的な姿がわかります」
「もうひとつの特徴は、世界的なつながりがひと目でわかるということです。とくに世界商品の場合は、まさしく世界に通用した商品ですから、その生産から消費までの過程を追うことで、世界各地の相互のつながりがみえるのです」