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BLOG校長ブログ

2023.08.24

「新しい戦前なのか」ーーこの夏の宿題③

1学期の終業式で「新しい戦前にしてはいけない、この夏は戦争、平和を考える夏にしてほしい」と生徒たちに話をしたのですが、そもそもはテレビでおなじみのタモリさんが昨年末、テレビ番組で「2023年はどういう年になると思うか」と尋ねられ、「新しい戦前になるのではないか」と答えたという話がネットなどで話題になったことがきっかけでもありました。この夏、あちこちで「新しい戦前」という言葉を目にします。

8月3日毎日新聞朝刊のオピニオン面「司馬遼太郎氏生誕100年」特集で、片山杜秀さん(慶応大学教授)が、日露戦争を描いた司馬作品「坂の上の雲」にふれ、「今や「新しい戦前」という言葉が聞かれるようになった。(略)日本は「戦前」を受け入れるモードに入っている。まさに「危機の時代」だ。「坂の上の雲」を「危機の時代の小説」として読む現代的な意義はそこにある」と語っています。

この夏の宿題①、②で紹介した加藤陽子さんが作家の奥泉光さんと対談した『この国の戦争--太平洋戦争をどう読むか』(河出新書、2022年)で奥泉さんはこう書いています。

「永遠に戦争のない世界。日本国憲法にも響くこの理想は、人類が苦難の末に獲得した理念であり、失ってはならないが、日本が新たな「戦前」のただなかにあるのはまちがいなく、「戦後」を継続するためにも、「戦前」体制の整備は喫緊の課題となるだろう。(中略)いま求められるべきは、昭和とは違う「戦前」、戦争をしないための「戦前」の構築である」

片山さんは同じ毎日新聞の記事で語っています。
「明治はある意味、戦争の期間を除けば常に「戦前」だった。「坂の上の雲」は、明治国家が戦争に備える「戦前小説」としても読めるのではないか」としたうえで、「日本が上り坂の時代に、どう外交をして、どう軍備を備えて、それでかろうじて勝てたということを学べば、下り坂の今の日本に、戦争ができるなんて思えないはずだ」

加藤さんは『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)で中高校生に語りかけます。

戦前、1930年代から何を学ぶかについて「国民の正当な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来見てはならない夢を疑似的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないとの危惧であり教訓です」とし、「戦前期の陸軍のような政治勢力が再び現れるかもしれないなどというつもりは全くありません」としながらも、現代における政治システムの機能不全の例として衆議院議員選挙制度と投票率の低迷をあげ、「若い人々には、自らが国民の希望の星だとの自覚を持ち、理系も文系も区別なく、必死になって歴史、とくに日本近現代史を勉強してもらいたいものです」と呼びかけています。