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BLOG校長ブログ

2023.09.07

この夏の乱読 その①

長かった夏休み、ゆっくりと読書のできる貴重な時期だとも思えるのですが、いかがでしたか。私の机周辺に読み終えた本が何冊かあり、強い印象が残っているもの、とにかくリラックスできたものなどなど紹介したい本がある一方で、購入したはいいもののページを開けていない本(積読!)がその何倍も。とほほ、ですね。

まずは1冊。

『平治の乱の謎を解く 頼朝が暴いた「完全犯罪」』(桃崎有一郎、文春新書、2023年)

このブログで「プリゴジンの乱」との呼ばれ方について書く準備をしていたころ(ブログは8月2日)に手に取りました。参考にしようとの目論見もなきにしもあらずでしたが、筆者の桃崎さんは個人的に注目している研究者で、これまでも結構刺激的な著作を楽しんできました。その桃崎さんの新しい著書ということで読み、やはり期待を裏切らない面白さでした。

タイトルに「乱読」とありますが、いろいろ読んだ、という意味で、平治の「乱」にひっかけてわけではありません。念のため。辞書では「乱読」に「濫読」の漢字をあててもいます。こちらの方がいいかも。

平治の乱(起きたのは1159年、平治元年)について「日本史年表 第5版」(歴史学研究会編、岩波書店、2017年)には以下のようにあります。

「藤原信頼・源義朝ら、院御所を襲い、上皇を内裏に移して天皇とともに幽閉する。信西(藤原通憲)自殺する。平清盛、信頼・義朝らを破り、信頼を斬る(平治の乱)」

桃崎さん自身は「そもそも知名度が低い。学校では保元の乱とセットで暗記させられただけ」と自虐的に切り出し、「保元の乱で勝ち残った勢力が、内輪もめを起こした。政権を主導する信西に対して、廷臣の藤原信頼と武士の源義朝が不満を抱き、反乱を起こした。しかし、官軍の平清盛に撃破され、清盛が武士の生存競争の最終勝者となった」と「あらすじ」をまとめています。年表の「硬い」表現を「翻訳」したような感じですね。

「平治の乱」は桃崎さんもあげている「保元の乱」とセットで「保元・平治の乱」などとも呼ばれ、日本史の流れの中では、摂関政治・院政と続いた古代中世から平氏・源氏の武士勢力が政治の中心に深く関わるようになり、次の中世・武士の時代を招くきっかけとなった事件、といったところでしょう。

では、桃崎さん自身が「ロマンに満ちた謎もない。<本能寺の変で信長暗殺を企画した黒幕は誰か?>とか、<邪馬台国はどこにあったのか?>といったような、歴史本や歴史番組の花形には遠く及ばない」という「平治の乱」を、桃崎さんはなぜ一冊の本で書くのか、という話になってしまいますよね。

ここまで思わせぶりに書いてから本の内容に触れていく、というのが本来なのでしょうが、本の帯に「誰が首謀者で、誰が隠蔽したのか? 日本史を転換させた謎だらけの大事件」とあります。さらには素晴らしい読書家で歴史関連の著作も多い出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)の推薦文「息づまる迫力で進んでいく。ミステリのように面白い」がついています。

そう、良質な推理小説を読んでいるような展開で、首謀者、隠蔽した人をここで書いてしまったら、ミステリの本を紹介する際のルール違反(犯人が誰かは書かない、アリバイ崩しなどのタネ明かしはしない)と同じことになってしまう、と考えた次第。

もちろん単なる読み物ではなく、平治の乱の持つ意味、歴史的位置づけについては、研究者としてきっちりと押さえて著述していることは書いておきます。