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BLOG校長ブログ

2023.10.13

いままた松本清張 その②

この夏、ついつい読んでしまった松本清張の『天保図録』。松本清張の作品はそれなりに読んできてはいるのですが、やはり膨大な素晴らしい作品を送り出してきた作家だけに、まだまだ読んでいない傑作が見つかりそうな予感もします。亡くなられたのは1992年、30年もたつわけですが、「新作」が楽しめるのは何よりです。

松本清張ほどの作家になると、人間松本清張、創作の秘密などを紹介する本もたくさんあります。

『誰も見ていない 書斎の松本清張』(櫻井秀勲、きずな出版、2020年)

北九州市の朝日新聞社に勤めながら芥川賞を受賞した松本清張が上京して作家として独立し、ベストセラー作家としての地位を築く時期に、出版社の担当編集者であった櫻井さんが、松本清張との出会いから思わぬ素顔までを振り返っています。

「清張さんの文章は、現代ものと時代もので、それほどの差異がない。時代小説を読んでみるとわかるが、現代文なのだ」
「どちらかというと松本清張という名は、推理作家としてのほうが強くなってしまったが、もとはといえば歴史・時代小説家であある」

そしてこんな評価をしています。
「長編の最高傑作は、週刊誌の連載としては二年八か月という異例の長期にわたった『天保図録』(一九六四年刊)だろうか」

作家と編集者としての付き合い方にもふれています。松本清張のような国民的作家、大作家ともなるとそれは大変だろうと想像するところですが、櫻井さんは松本清張の自宅を訪問する時に、
「夏はカットした西瓜(すいか)を買ってもっていった」

「西瓜は二人でポタポタ、汁を垂らしながらかぶりつくのだが、これが一番気に入っていた。現在、松本清張記念館の中に、本物の書斎と応接間が展示されているが、じゅうたんに西瓜の汁がいっぱいこぼれていることを知っているのは、私だけだろう」

その松本清張記念館(北九州市)の「館報 第22号」(2006年8月)で『天保図録』を小特集していることはすでにふれましたが、館報によると同記念館で『天保図録』連載時の挿画(挿絵)を集めた特別企画展「『天保図録』挿画展 風間完が描く江戸のひとびと」が開かれたようです。

そうですね、新聞や週刊誌などに小説が連載される時には、挿画が文字通り加えられることが多い、その原画をみてもらおうという企画です。連載が後に単行本、あるいは文庫本などになると、まとめて一気に読めるのはいいのですが、挿画が添えられることはあまりありません。

すこし調べてみると、松本清張の推理小説としての代表作の一つ『点と線 』の文春文庫版(2009年)には風間完の挿画が入っているとのことなので、早速購入しました。もちろん『点と線 』は鉄道の時刻表を使ったトリックが有名な、昭和が舞台の作品なので『天保図録』とは雰囲気は異なるりますが、なかなかいいです。

『天保図録』や『かげろう絵図』には現在の社会認識からすると「この表現はまずいでしょ」「この言葉使いはどうか」といった点が見受けられ、ちょっと「どきっ」とさせられます。作品が発表された時代からやむをえない点でもあり、それぞれの本には丁寧な「おことわり」が載っています。