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BLOG校長ブログ

2023.10.03

ノーベル賞 余聞(1)  福井謙一さん①

今年のノーベル生理学・医学賞の受賞者2名が2日、発表されました。海外の研究者の場合、あまり大きなニュースにはならないことが多いのですが、今回の受賞は新型コロナウイルスのワクチン開発につながった研究で、受賞理由として「世界中で130億回以上接種され、何百万人の命を救った」と讃えられただけに、新聞、テレビは大々的に報じています。

今週は各賞が順番に発表されていきます。ノーベル賞に関する本はそれはたくさんあるわけで、ここでは“変化球”も交えてノーベル賞にまつわる個人的昔話を。

ノーベル賞を受賞した日本人は、アメリカ国籍を取得した人も含めて2022年までで28人。日本人だからというくくりもどうかと思いますが、1981年、日本人6人目、化学賞を初めて受賞したのが福井謙一さん(1918年~ 1998年)です。

受賞時、京都大学工学部の教授でした。ノーベル賞候補としてはほとんどノーマークで、受賞の一報が流れてきて取材陣は騒然、勤務先からして当然京都支局が取材の最前線になるのですが、京都大学の教職員名簿で住所を確認して自宅に向かう、各新聞社とも同様で、福井邸は大混乱になったようです。それこそ取材記者が福井さんに向かって「先生はどんな研究をされているのですか」と一から質問するようなレベルだったわけです。

この福井さん受賞は私が京都支局で勤務する少し前のこと、その経験者が「あの時はさ・・・」と「伝説」のように語っていたのを漏れ聞いていたわけですが、福井夫人の福井友栄(ともえ)さんが授賞が伝えられた日の様子をなまなましく、かつユーモアいっぱいに振り返ったエッセイなどをまとめた著作があります。「伝説」を裏付けています。

『ひたすら』(福井友栄 、講談社、2007年)

発行年をみると、福井さんが亡くなられてから後のことですね、まあそうでしょう。ただ、88年以降に、京都で発行されていた文芸誌に掲載されたエッセイも含まれてはいます。

友栄さんは「騒動の始まり」と書いています。

10月19日の午後10時前、最近の賞の発表時間からするとかなり遅い時間ですが、娘さんとテレビでアクション映画を視ている時に、「京大教授、福井謙一氏ノーベル賞受賞」というニュース速報が流れる。

その時、福井謙一さんは電話でずっと話しこんでいて、その電話の相手は東京の新聞社、受賞の情報を得たものの、「(福井さんの)名前の綴りが違っていたので確かめてきたらしい」。

えーっ、驚きですよね。報道もかなり不確かな情報からスタートしたわけですね。そして、十分な準備がなかったことも間違いないでしょう。