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BLOG校長ブログ

2023.10.16

中国史を学ぶ おすすめ本①

中国の歴史、というかアジア史ですかね、最近読んで勉強になった著作を紹介します。

『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(松下憲一、講談社選書メチエ、2023年)

朝日新聞の読書欄(書評)で、筆者の松下憲一さんのインタビュー記事が掲載されていました。そこで「発売前、歴史ファンの間で「講談社選書メチエで鮮卑拓跋(せんぴたくばつ)の本が出るらしい」と話題になった」とあり、それならばと購入。

その記事では
「鮮卑拓跋とは、3世紀に登場し、現在の中国北部やモンゴルなどで活躍した遊牧集団「鮮卑」の一部族「拓跋部」のこと。晋の衰退からはじまる五胡十六国の時代を統一した北魏を建国したことで知られる」
とあり、そこだけとらえるとちょっと専門的すぎるのではとの感想も持たれそうですが、いやいや、中国史の理解を大いに助けるいい著作だと思います。

世界史を学ぶ高校生、あるいはかつて学んだ人が「世界史は苦手」という時、その理由としてあげられる一番は「年号や、言語で異なるさまざまな人名などを覚えなくてはならない」ということがあるでしょう。国(王朝)の名前が次々に変わっていくことを覚える、理解することの大変さも、「苦手理由」のかなり上位にくるのではないでしょうか。アジアに限ったことではないですが、中国も間違いなくその例にあげられるでしょう。

秦、漢、隋、唐などはなんとかなっても、それらの間に五胡十六国、五代十国などがでてきて、その数だけの国の名前を考えるといやはや、さらにここに北方の「匈奴」、この著作の“主人公”でもある「鮮卑」、さらには「突厥」「ウイグル」など、ちょっと強い印象を受ける漢字などで名付けられている遊牧民たちもでてくるわけで、ここでまた「世界史嫌い」をつくってしまいそうです。

インターネットで検索すると「中国の王朝の覚え方」などという、漢字のごろ合わせみたいなノウハウが紹介されていて、ああこんなことが「暗記の世界史」という思い込みを広げているのだと感じます。

この著作はタイトルにあるように、また新聞記事にあるように、中国の歴史を時間軸で描くもの(いわゆる「通史」的なもの)ではありません。ただ、中国の歴史の本質的なところを見事にとらえていて、読む価値があると思うのです。

「中国の歴史は、漢族と北方遊牧民との対立と融合の歴史でもある。中国王朝のなかには、夷狄とか胡族と呼ばれる北方遊牧民が支配者となったいわゆる異民族王朝がある」

として五胡十六国、北朝、五代、遼、金、元、清があげられ、さらに
「近年では隋・唐も遊牧王朝とする見解が強い」、「つまり中国王朝の半分は異民族王朝が支配した時代といってもいい」。

このように、冒頭で中国の歴史を大きく括ってくれるのがありがたい。もちろん専門家の間ではあたり前のことなのでしょうが、松下さんは
「しかし従来、中華の形成における遊牧民の関与については、ほとんど語られてこなかった」
と言います。そこで遊牧民社会、遊牧集団を理解する一歩として、「鮮卑」の一部族「拓跋部」の歴史、社会、生活を掘り下げていくということになるわけです。