2023.10.31
コロナ禍もまだまだ油断はできず、インフルエンザもはやりつつありながらも、少しずつ鉄道での移動の機会も増えてきて、そうなると「鉄分」の補給が必要になってきます。新聞の書籍広告で目に入った新幹線の本を読みました。鉄道本も久しぶりかと。もちろん、この手の本は相当読んではいるのですが、結構新たな「学び」がありました。
そうそう「鉄分の補給」ってなんのこと、ですよね。「鉄ちゃん」(鉄道好き)の程度を表すのに栄養素の「鉄分」にひっかけて「鉄分が濃い」とか言ったりします。そのもじりです。覚えなくてもいい知識です。
前にも少し書きましたが、「鉄ちゃん」にもいろいろなジャンルがあって「乗り鉄」「撮り鉄」「模型鉄」などは字で何となく想像してもらえそう。「読み鉄」はどうか、鉄道に関係する本を読むということでしょうが、鉄道が登場する、鉄道が舞台の紀行文学を読むことなども含まれましょう。では「歴史鉄」はどうか、鉄道の歴史を知る、学ぶ、といったところですが、それが「趣味?」と言われてしまいそうでもあります。
ただ歴史に興味がある人、歴史好きにとっては交通の歴史を知ることはいよいよ「歴史」に深く入りこんでいくことになります。特に近現代史にとって交通・鉄道の歴史はかなり太い「思考の補助線」になると思います。
例えば、なぜ東海道線が最優先で工事が進められていったのか、さらには意外にも北海道でいち早く鉄道が敷かれたのはなぜか、また特に私鉄の発展の要因として見逃せない寺社参拝などがすぐにあげられます。戦争での兵士の移動・武器の運搬を最優先と考えたこと、経済発展のカギを握る石炭の採掘と積み出しの必要性など、政治経済分野だけでなく文化、生活の歴史に深く関わっています。
ということでこの新幹線全史です。新幹線の歴史については戦前の弾丸列車構想から叙述される点は他の類書と同じで、「全史」となると当然のことではあるのでしょうが、副題にあるように、この本では、どうしてそこに路線が引かれたのか、どうしてそこに駅があるのか、そこには「政治」と「地形」が影響しているという視点で書かれているところが面白い。
最初の新幹線、東海道新幹線の前身ともいえる弾丸列車構想は、戦前から列島の大動脈であった東海道線の輸送量が限界になり、それを補う必要があった。さらには植民地だった朝鮮半島、その先の中国大陸(特に東北部)へのアクセスの向上、つまり短時間で行き来したいので高速列車が欲しいという理由も加わって、もう一つの東海道線が計画され、一部で用地確保やトンネル工事も行われたのですが、第二次世界大戦・太平洋戦争でそれどころではなくなりました。
東海道新幹線は、かなりの部分がこの戦前の計画による土地を通ることにしたため、用地確保の時間、工事期間も短くてすみました。それでも、すべてが戦前のプラン通りとはいかず、細部でどこに線路を通すか、どこに駅をつくるかはやはりもめたわけです。このあたりを、東海道新幹線はじめ各新幹線の路線に沿って記録をひもとき、丁寧に検証していきます。
①出発地と終点をできるだけ直線で結ぶ(線路が曲がってばかりいたらスピードが出せない)
②駅は少ないほどいい(停車時間が増えれば終点まで余計に時間がかかる)
③線路の登り降りはできるだけないほうがいい(登りはどうしても速度が落ちる)
などがあげられるでしょう。
ところが、それぞれについて制約があります。
①東海道新幹線で東京大阪間を結ぶ場合はどうでしょう。日本地図を思い浮かべてもらえばいいのですが、簡単に直線で結ぶことはできませんよね。
②途中駅がないとお客さんが乗らない、さらには駅は便利なところにないと、やはりお客さんが乗らない。経営がなりたたなくなります。
③山が多い日本列島、多くの路線が山を越えなくてはなりませんが、そうなると登りが多くなる。それを避けるにはトンネルで山を貫通してしまえばいい。しかし、トンネルも地盤や地質によっては工事が難しい場所があり、どこでもいいというわけにはいかない
これらの制約の中で、いわばバランスを取りながら、路線を決めていくことになるのですが、これがタイトルにあるところの「地形」であり、さらにここに「政治」がからんできてさらに面倒になるわけです。
ここまで本1冊ですでにこの長さ、「鉄分」が入ってきてキーボードをうつ手がとまりません。マニアックにならないよう気をつけ、社会情勢、国際情勢とからめながら続けます。こんな「鉄ちゃん」もいるということで、しばしお付き合いを。