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BLOG校長ブログ

2023.11.02

新幹線と政治 ② 久しぶりの「鉄分」

「我田引水」という四字熟語は知られていますよね、自分の田んぼ(我田)の作物がよく育つよう、自分に都合のいいように水を引いてしまうことから、「自分の利益になるように、はからうこと」(三省堂国語辞典第7版)の意味で使われます。これをもじって「我田引鉄」という造語があります。そう、自分の利益になるように、「鉄」つまり「鉄道」を引いてしまうことを揶揄・批判する言葉として使われます。

鉄道をどこに通すか、これは新幹線に限らず、明治に鉄道路線が全国に広がり始めた時からさまざまな逸話を残していて、その点では「我田引鉄」も結構古い言葉? なのです。それが新幹線でもやっぱり繰り返された、という言い方もできるでしょう。

例えば「どこに駅をつくるか」についてはどうでしょう。

新幹線の駅ができれば乗り降りで人が集まり、そこでの新たなビジネスを期待する人もでてくる、そんな人たちが政治家の熱心な支持者・後援者であれば、政治家はその期待に応えたい、つまり、国会議員ならば支持者のいる自分の選挙区に駅をつくりたいわけで、新幹線を建設する国鉄、JRに駅設置を働きかける、という流れになります。これが「我田引鉄」(我田=選挙区、鉄=新幹線)、あるいは「「我田引駅」ですね。

さらにいえば、新幹線が通る場所(駅も)は土地を買い上げなくてはなりません。その土地所有者の収入になります。また、鉄道工事の仕事・雇用が生まれます。路線に関係する地域の土木建設業者らはその仕事を期待するでしょう。そんな人たちが政治家の支持者だったら・・・新幹線の路線がどこを通るかは、いろいろな人たちの利害がからみます。

もちろん政治家が注文したからここに駅ができた、といったことを簡単に証明できるわけではありません。(そのような微妙な話を政治家本人が口外することはなかなかないでしょう)

ただこの『新幹線全史 「政治」と「地形」で解き明かす』(竹内正浩、NHK出版新書、2023年)で考察されていてなるほどと思ったのは、国鉄・JRがさまざまな制約・条件を考慮して合理的に計画工事した路線、駅について、それがたまたま政治家にとって願ってもない形になったため、政治家があたかも自分の意見でこうなったかのように自己PRに使った、と推測している点です。つまり政治家が「伝説」をつくるのですね。

「我田引鉄」は新幹線に始まったことではない、と書きました。そのものずばりの著作があります。

『鉄道と国家 「我田引鉄」の近現代史』(小牟田哲彦、講談社現代新書、2012年)


「狭い国土の中を実に多様な鉄道が走っている。その多様性は世界各国の鉄道事情に照らしても、大いに魅力的であるというのが、日本国内から世界各国まで合わせて地球二周分以上の鉄道路線に乗った私の所感である」(まえがきより)

という筆者の小牟田さんは
「政治家が鉄道政策に介入してその実現に助力したり政策変更に影響を与えたりしたとき、往々にしてその路線は「政治路線」などと揶揄される」
と表現します、「我田引鉄」とほぼ同じ意味と理解していいでしょう。

ところが筆者はさらに踏み込みます。
「日本の鉄道は成立当初から政治的要素を強く帯びており、広義ではほとんどが「政治路線」と言っても過言ではない」

そして、明治初期から具体的な政治家の名前をあげ、その政治家の影響を受けたといわれる路線を紹介していきます。

『新幹線全史 「政治」と「地形」で解き明かす』の筆者、竹内正浩さんにはこれに先立つ著書があります。

『ふしぎな鉄道路線 「戦争」と「地形」で解きほぐす』(NHK出版新書、2019年)

こちらは新幹線以前、明治初期の鉄道建設黎明期からをとりあげます。副題の「地形」は共通していますが、ここでは「戦争」、つまり日本の近代は戦争が続きました、そのために必要とされた鉄道路線、駅などがあったわけです。

軍部が路線決定に口を出したということは想像がつきますが、軍隊の中に鉄道を敷く技術を持った部隊があったということは、つい忘れがちです。例えば軍が侵攻・侵略した先で物資輸送のために急きょ鉄道を敷かなくてはならない、そのための技術を持つ部隊をあらかじめ用意しておくわけです。

その部隊の訓練のための路線もあり、戦後、その部隊が無くなった後は一般の人が乗る鉄道として役立てられていることも紹介されています。通勤通学でその路線を利用している人(鉄ちゃんでない人)には「新鮮」な話題ではないでしょうか。