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BLOG校長ブログ

2023.11.12

新幹線の未来 ーー 久しぶりの「鉄分」

新幹線の本の話から線路のゲージの話に広がってしまい、さらに、脱酸素社会を目指す世界的な潮流の中でも鉄道復権についても少し触れましたが、鉄道の役割の見直しについては、実は日本国内でも少しずつ声があがってきています。ここで日本の新幹線の話に戻ります。

朝日新聞10月7日付朝刊を引用します。

政府は6日、物流業界の人手不足を受けた関係閣僚会議を開き、トラックの代わりに船や鉄道で運ぶ貨物量を、今後10年で倍増(2020年度比)させる目標を定めた。再配達を減らすため、「置き配」を指定した消費者にポイントを付与する実証事業も行う。

トラック運転手の労働時間規制で物流が滞るおそれのある「2024年問題」の対策として、「物流革新緊急パッケージ」をとりまとめた。具体策は今月中に策定する新たな経済対策に盛り込む方針だ。

輸送方法をトラックから船や鉄道に切り替える「モーダルシフト」では、鉄道と10トントラックが共同で使える大型のコンテナの普及を進め、切り替えしやすい環境を整える。港や鉄道貨物の積み替え拠点などの施設の整備にも補助する。

この「モーダルシフト」という考え方はかなり前から言われてきました。「鉄ちゃん」として期待もしましたが、残念ながらあまり真剣に検討されたことはなかったように思われます。ヨーロッパのように環境問題が「鉄道復権」を後押しするような潮流もあったのに、日本では採算のとれない鉄道地方路線の廃線、あるいは廃線の検討ばかりが進んでいます。そして何より、鉄道での貨物輸送が圧倒的に減ってしまいました。

『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』 (石井幸孝、中公新書、2022年)

筆者の石井さんは日本国有鉄道(国鉄)でディーゼル車両の設計などにあたった後、常務理事・首都圏本部長などを務め、1987年の国鉄からJRへの分割民営化にあたってJR九州社長となった方で、当初から条件が悪いといわれたJR九州の経営を軌道に乗せました。

国鉄の長い歴史、そしてJRへの移行についてはたくさんの著作があります。時の政権のさまざまな思惑、国内最大規模の労働組合の存在など複雑な要素が絡むだけに、どのような立場の人が書いたかが重要になってきます。その点で石井さんは経営側と言えばそうでしょうが、豊富なデータを提示しながら、丁寧に説明をしています。各種書評でも好意的に受け止められているようです。

その中で「鉄道貨物の栄枯盛衰」という1章を設けています。
「貨物輸送における昭和35年度の鉄道貨物の分担率は39.0%もあったものが、昭和55年度にはわずか8.5%に下落している。この落ち込みの原因は主として自動車との競争に完全に負けてしまったことにある」
「この貨物部門の膨大な赤字が、国鉄経営全体の経営悪化の大きな原因になっている」

このような数字をみると、モーダルシフトと言われても「もはや不可能」と冷ややかに受け止められそうであり、簡単な話ではないと思います。

石井さんは、日本鉄道の将来についていくつか提言しています 。その中で「新幹線物流」という提案をしています。端的に言ってしまうと、新幹線で貨物を運べばいいということです。

東海道新幹線はリニア新幹線建設計画からわかるように、すでに輸送量は限界にきています。東海道新幹線建設時から貨物列車を走らせるという考え方はあったようですが、高速移動、乗客を増やすことを最優先させたため、退けられたようです。

しかし、東海道新幹線以外を見ると、列車本数もそんなに多くはなく、そこを旅客輸送だけで使うのは、建設にかかって費用を考えても、もったいないのではないかというのが石井さんの指摘です。

もちろん現在の新幹線の車両は乗客を乗せる設計になっているので、貨物輸送には適しません。しかし、軽い小さい荷物、短時間での輸送が期待される食料品などを今のままの新幹線車両に積んで運ぶ「貨物輸送」は車両の改造などは必要ないので、すぐにもできそうです。

実際、JR東日本ではすでに、小口の荷物を新幹線で輸送する「はこビュン」サービスをすでに実施しています。石井さんはさらに発展させ、新幹線でのコンテナ輸送の可能性に言及し、著書ではそのイメージ図も載せています。

国をあげてのモーダルシフトという考え方が本格化すれば、新幹線での貨物輸送の後押しになるかもしれません。鉄道の「新しい未来」が拓けるのかもしれません。