04-2934-5292

MENU

BLOG校長ブログ

2023.11.07

レールの幅・ゲージ ② ―― 久しぶりの「鉄分」

では、そもそもなんで鉄道のゲージが異なるのか、おおもとのところを整理します。

まず、日本の新幹線のゲージ1435ミリメートルは一般的に「標準軌」(standard gauge)と呼ばれます。1435ミリメートル、メートル法だとえらく「半端」な数字に聞こえますよね。鉄道発祥の地、イギリスで長く使われた長さの表記だと4フィート8インチ半、うーん、これでも「半端」な感じ、もっときりのいい長さにしたらいいのに、と同じ思い。

『鉄道ゲージが変えた現代史 列車は国家権力を乗せて走る』(井上勇一、中公新書、1990年)

初めに、鉄道ゲージのあれこれがコンパクトにまとめられているので、引用します。

鉄道がイギリスで初めて敷かれた時のゲージが4フィート8インチ半(1435ミリ)、その理由については
「鉄道工学上の科学的根拠にもとづくものではなく、蒸気機関車を考案したスティーブンソンがたまたまこの幅を蒸気機関車のゲージとしたからであった」
とあっさり。とはいえ、古代ローマの戦車の軌間と同じともいわれていて
多分に歴史的な経験から割り出されたもの」
と含みは持たせてはいますが。

イギリスでも最初は私鉄ばかりで、それぞれの会社が独自のゲージで鉄道を敷いていったものの、やはりゲージが共通のほうが便利ということで、徐々に4フィート8インチ半に統一されていったとのこと。そして1846年、イギリス政府はこのゲージを「標準軌」と定めます。これは今でも世界中で使われる用語で、これよりゲージが広いと「広軌」、狭いと「狭軌」と呼ぶことになります。

「ゲージが異なる二本の鉄道が接続する場合には、その二本の鉄道は接続地点で不連続な状態となり、そのままではその間の相互乗り入れができないなど、経済効率の上からはきわめて不都合になるからである」
西ヨーロッパではスペイン、ポルトガルを除いてゲージは標準軌に統一されているものの東ヨーロッパ、ロシアはそうではなく、
「第一次世界大戦の独ソ講和条約が締結されたブレスト・リトウスク(ソ連・ポーランド国境、ソ連側)では、東(ソ連側)からは広軌の鉄道が、また西(ポーランド側)からは標準軌の鉄道がきており、そこを通過する列車はゲージを合わせるためにクレーンにより車体を吊るして台車の交換を行っていたという」
そっか、ソ連がロシアになったとはいえ、「台車交換」、これって“お家芸”かも。逆に言えば、こんな歴史があるので、北朝鮮からロシアに列車が入る際に台車交換することに抵抗がないのかもしれません。

ロシア、北朝鮮の間の話だけではありません。

ロシアのウクライナへの進攻に対して、ヨーロッパの国々がウクライナに武器支援を行っていますが、大量に武器を運ぶのにはやはり鉄道がいい、ところが、ウクライナの鉄道のゲージとヨーロッパの国のゲージは同じではないので、両国の鉄道が国境の駅で接続していても、列車がそのまま通過することはできないのです。結局、貨物を積み替えるか、このように台車を換えてまで「直通」させるかという選択になります。

ではウクライナの鉄道のゲージはというと、ロシアと同じなのです。旧ソ連時代の連邦構成国同士だったので、たくさんの列車がロシア・ウクライナ間を行き来していたのでしょう。こんな面からもロシアのウクライナ侵攻の歴史的背景がうかがわれます。

ところが、その国同士が一転して仲が悪くなるとどうでしょう。隣接の国に攻め込むとき、ゲージが同じだと鉄道列車で直通し、大勢の兵隊や武器を送り込みやすくなります。共通のゲージが一転して危険な要素になってしまいます。

もともと友好国だったならばやむをえませんが、隣接する国・地域を危険視するならば、最初から「防衛」のためにあえて異なるゲージで鉄道を敷く、という選択が出てくるわけです。(国境の駅がそれぞれの国にあって線路が直接つながっていなくても、国境をはさんで駅間距離はおそらく短いので、短期間の工事ですぐに線路をつなぐことができます)

そうなると一つの疑問が湧いてきます。北朝鮮とロシア(ソ連)って友好国のはず、首脳会談しているわけですから。それなのに、それぞれの国のゲージが異なるのはなぜ、ということですね。