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BLOG校長ブログ

2023.11.10

レールの幅・ゲージ ④ ―― 久しぶりの「鉄分」

『将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情』(国分隼人、新潮社、2007年)には、近年の北朝鮮の鉄道事情が書かれているのですが、「戦前の蒸気機関車」云々とありました。北朝鮮の鉄道の多くは戦前に日本が建設したものです。日清戦争、日露戦争で朝鮮半島への影響力を強め1910年の韓国併合で朝鮮半島を統治下におきます。その過程で半島内に鉄道が建設されていきます。

資料編の「北朝鮮 鉄道略年表」からひきます。

「朝鮮半島の鉄道史は日本の鉄道史でもある。1906年の京義線の開通から1945年の終戦まで、朝鮮総督府鉄道局と南満州鉄道が朝鮮半島の鉄道経営を担った」

では半島の鉄道のゲージは? ここで先のロシアのシベリア鉄道とそれに対抗する日本・イギリスの鉄道建設の話が結びつきます。そう「標準軌」です。やはり資料で「路線一覧」が掲載されていますが、ごく一部の支線が狭軌なのをのぞいて、幹線はすべて標準軌1435ミリとなっています。

ですから、第二次大戦後、朝鮮半島では韓国と北朝鮮の二つの国家が独立してものの、鉄道は標準軌鉄道がそのまま残り、使われました。北朝鮮とソ連・ロシアが友好関係にあってもすでに鉄道はあったので、ゲージの違いはいかんともしがたい、わざわざソ連・ロシアのゲージに合わせてつくりなおす(改軌)だけの必要性、経済的余裕はないということで、北朝鮮ロシアの国境を越える列車は「台車交換」が必要になるわけです。

さて北朝鮮の鉄道となると韓国の鉄道にもふれないわけにはいきませんよね。もうここまで書いてきたのですぐに理解していただけると思いますが、韓国内の鉄道のゲージも標準軌です。ゲージは南北同じ。さらにいえば戦前は現在の北朝鮮内と韓国内を行ったり来たりする列車が当然あったわけです。それが朝鮮戦争を経て軍事境界線(国境)によって分断された状態になっています。

2006年、北朝鮮と韓国との間で融和ムードが高まり、首脳会議をへてこの分断された南北の線路をつないで国境を越える列車を走らせようということなったのです。残念ながら実施前日、北朝鮮側から中止が一方的に通告されて実現しませんでした。

『鉄馬は走りたい 南北朝鮮分断鉄道に乗る』(小牟田哲彦、草思社、2004年)

筆者の小牟田さんは先に紹介した『「日本列島改造論」と鉄道』の筆者、海外の鉄道事情、鉄道乗車のルポなども多く手掛けている方で、韓国の鉄道に乗りながら南北に分断されたかつての路線に思いをはせます。「鉄馬」は列車のことです。

発刊年からわかる通り、06年の分断されていた路線をつなぐという試みの前になりますが、その時点での韓国内でもっとも北朝鮮に近いところに設けられた都羅山駅を訪れるルポがあります。その駅の先は北朝鮮というわけです。この時点では線路は途切れているわけですが。

「駅舎は想像以上に大きくて立派である。改札の前の待合室は広々として天井が高く、開放感がある」
いつでも南北路線がつながり、列車が国境を越えることを見越した韓国側の意欲の表れなのでしょうか。

「その展示物の中に、現在の終端部を写した写真のパネルがある。駅のホームからそれほど離れていない位置で途切れている線路の前に、ソウル、平壌それぞれまでの距離を示した簡単な立札が建てられている」
「都羅山駅は非武装地帯への観光バスが立ち寄る新たな観光地となっていて、滞在中に次々と観光バスが駅前に発着し、待合室の中を見学する。板門店へ行く日本人の団体もやってくる」

先日、北朝鮮の鉄道事情に参考になりそうな本を書棚で「発掘」していたらこの『鉄馬は・・』がありました。書き込みをみると読んだのは2004年、あらためてページをめくっていてこの都羅山駅のくだりが目にとまり、「ここ行っているよ」と思い出しました。2003年です。

ここにあるように、友人と板門店ツアーに行った際に立ち寄っている、確かに駅はえらく立派、対照的に周辺は閑散としていた印象が残っています。そんな経験があったので、この本を購入したのかもしれません。