2023.11.11
そもそも鉄道のゲージの選択についてはいろいろな要素があります。ゲージが広ければ大きい車体でも安定するので、旅客、貨物ともに大量輸送が可能でスピードも出せます。しかし、大きい車体に合わせてトンネルや鉄橋なども大きく作る必要がでてきて費用も人手もかかります。また、それぞれの国がどこの国の鉄道技術に学ぶかによって異なります。建設工事を「指導」する国の技術者らは、とうぜん自分の国の基準に合わせろ、ということになるからです。
北朝鮮とロシアのように国境で時々行き来するためにゲージの違いをどう解決するのかは、その時々の緊急性などで都度考えればいいわけですが、日常的に多くの人が行き来するとなるとゲージが異なれば結局乗り換えるしかありません。最終解決方法は、はい、山形新幹線、秋田新幹線の建設がその実例です。
東海道新幹線はゲージ1453ミリメートルで造られました。その後の東北新幹線も同様で、その東北新幹線から分かれる形で山形新幹線、秋田新幹線が計画されます。利便性を考えるとこの両新幹線は東北新幹線と接続しないと意味がないし、さらには同じ駅で接続するだけでは乗り換えの手間がかかるので乗客には歓迎されない、できれば、山形、秋田新幹線区間を走ってそのまま東北新幹線に乗り入れて東京方面まで向かえるのが理想ではあります。
しかし、東北新幹線の接続駅から東北新幹線と同じゲージ(つまり1453ミリ)で山形、秋田方面に新しい線路を引くとなると、そのための用地買収やら大変な費用とお金がかかり、開業時期がどんどん遠ざかってしまう。
そこですでにある路線=在来線を利用すればいいというアイデアが出てきます。東北新幹線とは別の東北本線(在来線)の福島駅からは奥羽本線が山形方面に伸びていました、同じく東北本線の盛岡駅は在来線の田沢湖線と奥羽本線で秋田と結ばれていました。この在来線を新幹線の路線にしてしまえば、用地買収はいらないわけです。ところが、在来線のゲージは狭軌の1067ミリ、東北新幹線の新幹線車両が乗り入れることはできません。では台車交換、まさかね。
結論は「改軌」、つまり在来線のゲージを新幹線のゲージに合わせることにしました。在来線の線路を付け替えました。1067ミリが1543ミリに広がったわけです。これで大きな問題はクリアできたのですが、では東北新幹線の車両がそのまま在来線の福島・山形間に入り込んでいいか、盛岡・秋田間に入り込んでいいかとなると、そうはいかない、トンネルや鉄橋などは在来線用のままのサイズ、東北新幹線の車両は通れません。ゲージを変えただけでは終わらないわけです。かといってトンネルや鉄橋も造り変えるとなると、これもやはりかなりの費用と時間がかかる。
ということで、福島・山形間、盛岡・秋田間を走れる新幹線車両を新たに造りました。東北新幹線の車両より小ぶりなので、山形新幹線、秋田新幹線を通称、ミニ新幹線などと呼ぶことになります。(福島・山形間、盛岡・秋田間を走れる新幹線車両はもちろん東北新幹線内を問題なく走れますが、ご存じのように、東北新幹線の列車と連結して走っています。福島駅、盛岡駅で切り離されてそれぞれの路線に入っていきます)
さらに付け加えると、ゲージが変わった福島・山形間や盛岡・秋田間は新幹線車両だけが走るわけではありません。新幹線が停まらない駅もたくさん残ったので各駅停車用の電車が必要です。見た目は首都圏などでみられるタイプの電車ですが台車が広いゲージ用になっています。つまりこの電車は同じJRでも別の区間は走れないわけです。
この「改軌」ですが、実はこの新幹線の時特有のことではなく、首都圏や関西圏の私鉄ですでに例があるのです。これ以上はマニアックなので、もうここらあたりで。
およそ100か国・地域で鉄道を取材してきたフォトジャーナリストの方と、新聞社の企画で読者親子との北海道鉄道の旅をご一緒したことがあります。かっこよくいえば引率責任者ですが、「鉄ちゃん」であることを知っている心優しい部下がすべてお膳立てして、心よく送り出してくれました。
鉄道資料が充実している小樽市総合博物館でのことだったと記憶しています。この方がリュックから取り出したのがメジャー(巻き尺)、そのメジャーを線路にあてて見せてくれました。外国に行けばいろいろなゲージの鉄道があり、それを確認するのが習慣になっているとか。「これ旅の常備品です」と。おそれいり、脱帽でした。
ゲージの話のしめくくりとして。