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BLOG校長ブログ

2023.11.23

パンダ外交ふたたび ②

アメリカにパンダが初めて贈られた時の中国は「中華民国」、第二次大戦を経て、国のありかたや外国との付き合い方については全く異なる中華人民共和国が成立しても「パンダ外交」は引き継がれ、さらには拡大していきます。日本に初めてパンダがやってくるのは1972年、カンカン、ランランと名付けられたつがいでした。この年に「日中国交正常化」がなった、その友好のシンボルとしてのパンダでした。

『中国パンダ外交史』(家永真幸、講談社選書メチエ、2022年)には興味深い話が続きます。

カンカン、ランランの「来日」で日本でも大ブームが起きるのですが、これ以前から、中国に対してパンダをいただけないかという要請が伝えられていた。ところが、国交正常化に慎重だった首相がいる限りは出さない、というのが中国の答えだったそうです。これまた「へーっ」ですね。

パンダがやってきて大ブームになったのは確かなのですが、その土壌がすでに日本国内にあった、それを中国はよく見ていた、そして、首相が代わり、国交正常化を受けてパンダが日本に贈られたわけです。まさに「パンダ外交」ですね。

さて、中国の習近平国家主席がアメリカでパンダについて発言した記事に「パンダの新たな貸与」との文言があり、家永さんの著作の引用にも「繁殖協力のための協定」とか「返還」とかの文言があります。

野生のパンダは中国のごく一部地域でのみ生息しています。その可愛さが人気であるのはもちろんながら、希少価値が「外交」につながるわけです。しかし、中国でも生息数は限られており、野生動物保護のための国際条約(いわゆるワシントン条約)でジャイアントパンダは「絶滅のおそれのある種」に指定され、国際取引が激しく規制されるようになったので、中国政府も外国へのパンダ贈呈ができなくなります。

そこで考え出されたのが、パンダの「貸与」でした。レンタルですね。引用します。

「入手困難となったパンダをワシントン条約に抵触しない形で中国国外に連れだすために編み出されたのが、いわば「お金を払ってパンダを借りる」方法だった。研究の名目でパンダを三~六ヵ月程度の短期間借り受ける代わりに、借り主は中国側にパンダの保全研究活動に必要な金銭・技術・施設設備など、各方面で援助する」

とはいえ、ちょっと無理があるように感じられますよね。やはり野生動物保護団体から強い反対を受けたとのこと。そこで別の考え方が出てくるのです。

「ブリーディング・ローン(繁殖貸与)」制度である。この制度の趣旨は野生動物の捕獲は最小限に留め、動物園間での動物の貸し借りにより繁殖を行って、将来的に持続可能な飼育展示を実現することだ」

そして、10年程度の長期貸与が「パンダの繁殖生理の解明や実際の繁殖に有効」という研究者の意見が大勢となり、贈与でなく貸与が主流になっていきます。

「パンダを借り受ける際に借り主が中国側に支払うのは、年間一〇〇万ドル程度(日本円で一億円前後)が通例となった」

「中国にしてみればパンダ・レンタルは、安定的に巨額の外貨をもたらすビジネスになった。(略)レンタル方式による中国の新たなパンダ外交は、ビジネスであると同時に外交政策でもあるという、ハイブリッドな性質を獲得したといえるだろう」

この結果、先に紹介したように現在、中国国外で飼育されているパンダの総数は60頭ほどになっているわけです。日本は多い方ではないでしょうか。

レンタル方式に変わっても中国国外にパンダを出すこと、どの国に出すかは中国政府のさじ加減次第、そこが「パンダ外交」ともいわゆるゆえんで、そのやりかたへの心理的抵抗を持つ人もいるでしょう。しかし、家永さんはきちんとおさえています。

「「パンダ外交」が中国の巧妙な罠であるかのように紹介されることがある。しかし、本書がこれまで見てきたとおり、パンダ外交はそもそも、外国がそれを熱心に欲しがったからこそ生まれた中国の外交戦術である」

「筆者の見た限りでは、これまでパンダが中国の「外交カード」として大きな役割を果たした形跡はない。中国と外交交渉を行うどの国も、パンダ欲しさにその他の国益を譲歩するほど純朴ではない」

そして以下のようにまとめます。

「かつての中国のパンダ外交は、国際社会からの要求をその時々の対外宣伝戦術に巧みに応用した、ある意味で受動的な産物であった」

「近年の動向からは、より能動的にパンダ外交を展開していこうという中国政府や企業の意欲が見てとれる。パンダ外交は、中国政府自身がパンダの「ありがたみ」を積極的に肯定・発信し、それを外交戦略上重要な国々との関係強化に利用していくという、また新たな局面に入りつつある」

アメリカでの習近平国家主席の発言には、この「外交戦略上重要な国々との関係強化に利用」するというねらいが込められているのかどうか。政府与党である公明党・山口那津男代表のパンダ貸与の要請に中国政府がどう応えるのか、朝日新聞の23日付朝刊によると、山口代表と会談した中国共産党の幹部は前向きに検討する意向を示したそうです。どう具体化するのか注目です。

東京・上野動物園の「ジャイアントパンダ情報サイト」 こちらから

和歌山アドベンチャーワールドのパンダについてはこちらを