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BLOG校長ブログ

2023.12.02

脳はまちがえていい ②

『まちがえる脳』の中で櫻井芳雄さんが繰り返し強調するのは、脳についてはまだわからないことだらけということです。

「本書の目的は脳の実態を伝えることであるが、同時に、AIは脳に近づき心が宿ると信じている研究者のように、脳はもうわかっている、という誤解を解くことも目的にしている」

そこで、脳を安易にコンピュータやAIと比べたりするような研究に対してきちんと反論するわけです。さらに「迷信を超えて」という一章をもうけてもいます。例えば、大脳の左半球と右半球は働きが異なる(半球機能差がある)という「説」をとりあげます。

「左脳人間と右脳人間に分けたり、論理能力を高めるため左脳を鍛え、感性を高めるため右脳を鍛えます、などとうたうビジネスも生まれたりしている」
これに対しては
「そもそも論理や感性が脳のどこで処理されているのか、ほとんどわかっていない。左脳と右脳のどちらかがかかわっているという証拠もない」

また、女性と男性の違いを脳の大きさや働きで説明しようとする「男脳女脳神話」についても明快に否定します。
「個人の脳をジェンダーで区分すること、つまり男性脳と女性脳に二分することは不可能で、また意味がないことがわかる」

「脳は10パーセントしか使われていない」という説を「10パーセント神話」と仮に名付けます。
「「あなたの使われていない潜在的な脳の力を引き出す」という宣伝文句を謳う能力開発セミナーも存在する。この迷信はすでに20世紀初頭から存在しており、もはや古典ともいえる」
「脳は、寝ているときも起きているときも、常に全体が休みなく活動している」

このあたり、個人的には以前から「胡散臭い」と感じていたこともあったので、読んでいて痛快でした。

では現在、脳の研究はどこまで進んだのかということになります。「まとめ」に入らなければなりませんよね

「これまでの脳科学は何が問題だったのだろうか? それは多分、脳という多要因の相互作用からなる動的な構造体を、個々の要因が独立して働く静的で機械的な構造体として理解しようとしてきたことかもしれない。ニューロン、神経伝達物質、遺伝子のような個々の要因がそれぞれ特定の機能を担っていると仮定することや、特定の部位と特定の機能の一対一の対応を見つけようとしてきたことが問題であった」

「脳の教科書を見ると、ある機能はある部位が担当していると書かれている。(運動や視覚、記憶など)ほぼすべての機能それぞれを脳の特定の部位が担当しているということであり、それを機能局在と呼んでいる」

「たしかに個々の部位も個々のニューロンも、それぞれある程度は異なる機能を分担しているのかもしれない。しかし、それぞれが独立して働いているはずはなく、脳全体の中で働いてこそ、初めてその機能が発揮できるのである。(略)単純な役割分担による機能局在が脳の特性であるという考えは、人にとってわかりやすいシステムを脳に投影しているにすぎない」

「脳の機能は、多様な部位、多様なニューロン、多様な神経伝達物質、そして多様な遺伝子が相互作用しながら働くアンサンブルによって実現されていると考えざるを得ない。そのアンサンブルの姿を解明したときこそ、脳を解明したといえるのであろう」

うん、アンサンブル、いいですね。