2023.12.22
歴史小説・時代小説家としてこのところ一番注目されている作家でしょう。今村祥吾さんの最新刊、面白く読ませていただきました。
2022年『塞王の楯』で直木賞を受賞した今村さんですが、本屋さんの応援でも知られています。街の書店を残したいという思いから廃業の危機にあった書店の経営を引き受け、また「今村翔吾のまつり旅」と称して全国47都道府県の本屋さんなどをめぐるツアーを行いました。「自宅に帰ることなく全国をワゴン車で巡り」(公式ホームページより)、118泊119日で完走したそうです。
その今村さんの最新作がこの『戦国武将伝』です。特徴的なのは「東日本編」「西日本編」の2冊がセットとなっていること。「まつり旅」ではないですが、47都道府県から1人ずつ戦国武将をとりあげて短編小説に仕立てています。その短編が上下に分かれてまとめられています。
新聞広告だったと思いますが、今村作品はこれまでもいろいろと読んでいることもあってすぐに購入しました。47都道府県といっても、例えば合戦の舞台としての地名、あるいは著名な戦国武将、大名とすぐに結びつかない都道府県があります。それだけに、あえて前知識なしで読み始めました。
例えば東日本編、北海道は蠣崎慶広、青森県は津軽為信、「蠣崎氏」「津軽氏」は知られた「家」ですが、個々の武将となるとちょっと、といったところ。岩手県の北信愛、秋田県の矢島満安などは初めて聞く名前でした。西日本編は戦国時代のありようとして比較的「知名度」のある大名、武将が多いような印象でしたが、それでも大分県・戸次道雪、香川県・十河存保などは新鮮でした。
それぞれの小編ではいわゆる大名のふるまいに限らず、大名とその子どもたち、あるいは部下とのつながりなどが描かれます。むしろ、そのような「周辺」の人物が主人公といった作品もあります。そんな工夫があるので同じような話にはなりません。というか、同じようにしないのが作者としての力量なわけですが。
もちろん、徳川家康(東京都の「枠」です)、織田信長、豊臣秀吉、武田信玄、上杉謙信なども「忘れずに」登場します。これらの人物については数多くの小説が書かれてきたわけで、「いまさら」と思わせない新しさが必要ですし、ましてや短編です。ある意味こちらこそ作者の腕のみせどころかもしれませんね。
滋賀県・石田三成のタイトルが「四杯目の茶」。滋賀の寺に預けられていた三成が寺を訪れた豊臣秀吉に気に入られるきっかけになったと語られてきた、三杯の茶。のどが渇いているだろうから最初はぬるい、薄い茶を出す、だんだん茶を濃くしていくという、あれです。実は四杯目があった、という想定です。
広島県・毛利元就の「十五の矢」。元就が子どもたちが協力して毛利家を盛り立てていくことを教え諭すために、矢1本では容易く折れてしまうが3本が束になったらという、これも有名な「あれ」ですね。これが「十五本」、ややっ、という感じですね。
鹿児島県・島津義弘の「怪しく陽気な者たちと」では、実質的な主人公は井戸又右衛門という伊賀・山城に勢力があった筒井家の家臣。それがなぜ島津、という意外性が面白い。関ヶ原合戦に西軍として加わりながらほとんど戦わずに戦線離脱して鹿児島に逃げ帰る島津義弘の話はこれもいくつかの傑作小説となっているのですが、こんな切り口があるのかといたく感心させられました。
今村さんの公式ホームページはこちら