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BLOG校長ブログ

2024.01.09

京都は産業都市か ①

大災害、航空機事故で迎えた新年、お祝い気分にはなかなかなれませんが、2024年も拙いブログを書き続けます。
学校行事や生徒たちのようすを紹介するのが学校長ブログに期待されるところでしょうが、そうそう日々のキャンパスに変化があるものでもありません(あまり変化がないことも大事ですよね)。ブログは更新していくことが必須、とも指摘されているので、いろいろ書けることは何かと考え、こんな本を読みましたという感想を綴っています。
高校生が興味を持つような本ばかりではないと思いますが、若い人たちの読書への刺激になればこんなにうれしいことはありません。

ということで2024年の最初にとりあげるのは「京都」です。

いやあ、久しぶりに京都関連で刺激的な、大いに勉強になる本に出合いました--というのは結構きれいごとの感想で、読んでいて「情けなさ」が消えませんでした。こんな見方があったんだ、自分はこんなことも知らなかったんだと。

30年も前のことですが、新聞記者として京都で5年半仕事をしました。もちろん京都人ではなく、一時的に通り過ぎるだけの街だったのですが、生意気にも、魅力あふれる奥の深い街の実像をどうつかもうか、この街はどう変わっていこうとしているのか、どう変わればいいのかなどを考えながら情報発信していくことが記者の仕事だと考えていたわけです。その前提としての知識がいかに表面的であったかと、おおげさに言えば打ちのめされました。

『京都 未完の産業都市のゆくえ』(有賀徹、新潮選書、2023年)

もちろん、私の取材対象であった「京都」は30年前の「京都」なので、知らなかったこともそれはあるだろう、30年で変わったことも、またたくさんあるだろうとの言い訳は可能かもしれませんが、有賀さんのこの著作は明治以降、近代の京都を対象としているので、30年前の京都もその中に入っているわけ、やはり気持ちは複雑です。

前置きが長くなりました。このような私的な感慨はおいておくとしても、やはり面白い本です。簡単にまとめきれないくらい多岐にわたるテーマを掲げています。精緻なデータにもとづいて、知らなかった京都 誤解されている京都が「これでもか」と紹介されている、といったところでしょうか。

どう書くか迷っていたら、実に的確な「まとめ」が見つかりました。
この本を発行している新潮社のウエブサイト「情報誌フォーサイト」で、今の京都を語るうえで欠かせないこの人、井上章一さん(国際日本文化研究センター所長)が筆者の有賀さんと対談した記事が掲載されていました。

対談のタイトルは「「京都」はなぜ経済的に未発達なのか――未来の都市として再生するための処方箋」、著書については「「京都」はなぜ日本の中心都市から脱落したのか――「京都」礼賛一辺倒に疑問を持つ京大出身の経済学者・有賀健氏が、この町の近現代の軌跡を統計データを駆使して分析した『京都 未完の産業都市のゆくえ』」と紹介されています。

この対談そのものも、阪神タイガースファン同士としてのやりとりなどが面白いのですが、きりがないので、興味のある方はウエブサイトをチェックしていただくとして、井上さんの有賀本評価を引用します。
 
京都を分析するにあたり、本書ではたびたび、大阪はどうだったかが検討されます。これまでの研究を振り返ってみると、大阪の都市史であれば、宮本又次・宮本又郎父子、作道洋太郎などの諸先生方を始めとして経済学畑による研究の蓄積があるのですが、京都に挑む人はどうしても日本史畑の研究者が多かった。本庄栄治郎さんの『西陣研究』のような例もありますが、経済学者がそそられるのは比較的オーソドックスな近代化の道を辿った大阪で、手薄になっていた関西のもう一つの都市に有賀さんが統計資料を駆使して踏み込んでくださった。おかげで、ステレオタイプではない京都の近現代像を見ることができたのではないかと思います。

「食べログ」や「一休.com」などのウェブサイトを元に、レストランや小料理屋の店舗がどう集積し、京料理が20世紀末からどのように飛躍的な技術革新を遂げたかを描いていますが、祇園や先斗町などが「小料理屋のシリコンバレー」になっているという指摘も、なるほどと膝を打ちました。統計的データに裏付けられた分析には、有無を言わさぬ説得力がありますね。

井上さんの指摘について、有賀さんは著書ではこういう言い方をしています。

「現代の京都について決まり文句のように繰り返される表現の実証的な根拠が贔屓目に見ても薄弱であり、厳密な統計的検証を経たものではない」

京都に関心がない人にとっては、なんでそんなに思い入れが強いのかという話が続きます。京都という都市から見えてくる都市全般の課題、さらには最近いわれるオーバーツーリズムなどにもふれながら、マニアックにならないよう紹介をしていきます。

新潮社のウエブサイト、有賀さんと井上さんの対談はこちらから