2024.01.11
『京都 未完の産業都市のゆくえ』(有賀徹、新潮選書、2023年)をとりあげて、どうしてこの本なのかを「京都は産業都市か ①」(1月9日付)で長々と書いてしまいました。内容に入っていきます。この本は「京都の近代を考える」ということなので、たくさんの切り口が想定されます。有賀さん自身が「本書の内容が多岐にわたる」と書くように、各章のタイトルが「京都の経済地理」「京都の町と社会」「京都の町の変容と人口移動」「ゆりかご都市京都」「住む町京都」「観る町京都」とそれぞれで1冊の本が書けそうです。
と言いながら、突然、話題が飛びます。
本校所在の埼玉県の広報紙「彩の国だより」は毎月新聞各紙朝刊にはさみ込んで届けられるのですが、12月号をみて驚きました。映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて』が劇場公開にあわせて大々的に取り上げられていたからです。
「空前の“埼玉ブーム”を巻き起こした大ヒット映画『翔んで埼玉』の続編がついに公開。これを機に、埼玉愛をさらに高めて、埼玉を熱く盛り上げていきましょう」
こんな呼びかけ文章が載っていて、自治体の広報紙としては結構「とんでいる」ようでちょっと笑ってしまいました。
じつはこの映画(続編)で一番気になっていたのは、今回は埼玉だけでなく滋賀、和歌山も舞台になっているということでした。東京に比べての埼玉というのが大前提になっていた前作でしたが、関西に目を向けると大阪、神戸、京都といった都会と比べての滋賀や和歌山といった位置づけが重なってくるということなのでしょう。
そう滋賀県です。
映画のサブタイトルにもあるように滋賀県と聞くと、日本一大きな湖、琵琶湖を思い浮かべる人が多いでしょう。有名観光地はどこかとなると一つに絞るのはなかなか難しいかもしれません、比叡山延暦寺があるのですが、多くの人が京都と思っているでしょう(所在地は滋賀県です)。便利さでは首都圏の鉄道を凌駕するといったもいい関西圏の鉄道網のおかげて滋賀県は大阪や京都の通勤圏になっています。このあたりは埼玉と重なってきます。
映画の話題からそんなことを考えていた時に、有賀さんの著作で滋賀が出てきました。
「京都市の人口140万程度に対し、大学生・大学院生は約15万人と10%強を占める。また、毎年約2万5000人の学生が京都の大学に入学することから、凡そ毎年2万人程度の府外出身者が京都の大学に入学すると推定される」
ところが
「そのうち府内で職を見つけるものはせいぜい10%程度であり、京都は最も重要な社会移動の契機において、明らかに見劣りする選択肢と考えられている」
つまり「学生の街」でありながら、その学生が卒業すると京都に残らないというわけです。加えて
「20代後半から30代にかけての年齢層でも京都は流出が流入を上回る」
「要するに、京都は高校・大学の年齢層で大幅な人口流入を経験するものの、卒業時にはその大半を東京と大阪に失い、更に20代後半から40代前半の階層を滋賀や大阪に移住するパターンで失っていることがわかる」
「京都市の人口動態は、京都が新たな職や結婚後の住まいを探す世代には概して不評であることを明確に示すものであり、それはとりもなおさず、京都という町が、大学都市を超えて、移住を促す要因に欠けることを示すともいえよう」
京都は若い人が住む街でなく(住みにくい街で)、若い人たちは滋賀県などに「住まい」を見つけていく、という分析です。
ただここで注意したいのは、東京に職場があるが都内には住まない、あるいは地価や家賃などを考えると都内には住めない、なので埼玉や千葉で住まいを見つけるというのが首都圏住宅事情だとすると、それと比べた場合、有賀さんが書くところの「京都が新たな職や結婚後の住まいを探す世代には概して不評」というのはかなり深刻な問題だとも言えそうです。
「(京都市の)人口減少数は3年連続で全国1位だ。背景の一つが、古都の景観を守るための高層マンションの建築規制だ。地価が高騰し、子育て世代が隣接する大津市などに流出。京都は大学の街としても知られるが、学生の大半は卒業とともに市外に引っ越してしまう。50年には現在より20万人以上減少し、124万人に落ち込む見通しだ」
公的機関のデータでも有賀さんの分析は裏付けられているわけです。というか、この本がきちんとしたデータをもとに書かれていることの証拠と言ってもいいでしょう。
映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて』の公式サイトはこちら
「国立社会保障・人口問題研究所」が発表した『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』はこちら
この推計によると2050年には2020年比で全国で17%人口が減少、人口が増える都道府県は東京都のみで2.5%増。埼玉県は734.5万人(2020年)が663.4万人に9.7%減少すると推計されています。