2024.01.12
京都の現状を知るための要素の一つとして、隣接の滋賀の存在があるということが有賀徹さんの『京都 未完の産業都市のゆくえ』から浮かび上がってきました。さてその滋賀について関西のベッドタウン的な紹介もしましたが、実は全く別の「顔」も持っていることを改めて知りました。『京都 未完の産業都市のゆくえ』から引きます。
「京都の新興企業の成長はむしろ滋賀の急速な製造業の成長に貢献することになった。ちなみに、現在でも滋賀県は県内総生産に占める製造業比率が43・6%と全国1位である」
確かに言われてみると東海道新幹線で滋賀県内を通ったり、名神高速道路を走ったりすると、大きな工場が目に入ります。その新幹線、滋賀県内の駅は県のかなり東寄りの米原だけということもあって、一時、県中心部の栗東あたりに新駅をという構想がかなり具体化しました。このような製造業関連で新幹線駅への期待があったのだろうと今になって想像します。
「新興企業が多く生まれる一方、成長するにつれて市外に発展の途を求めるような町を、ゆりかご都市(Nursery City)と呼ぶが、京都はその特徴を持つ」
と説明されています。
京都には京都発祥の新興企業がたくさんあるのですが、実はその多くが京都の中心部に本社や工場を持っておらず、中心部から少し離れた南部、西部に会社工場があります。有賀さんはこの地域を「南西回廊」と名付けます。南西回廊は鉄道や高速道路網で大阪や滋賀とスムーズに結びついています。新しい工場をつくろうと考えると、ネットワークが作りやすい滋賀も候補地としてあがるわけです。「ゆりかご」、つまり始まりは京都でも、成長すると外に出て行ってしまう、ここでも京都は「逃げられている」わけです。
有賀さんの本には出てきませんが、大学事情もそうかもしれません。京都市内の大学が新しいキャンパスを滋賀県内に広げています。もちろん広範囲から学生に来てもらおうという戦略はあるのでしょうが、京都市内には校舎や研究施設を広げる用地がないという事情もあるでしょう。交通の便がいいので移動にさほど時間がかからないという交通網の強みも後押ししていることは間違いありません。
「京都の職業分布」という興味深いデータが示されています。日本の就業人口のうちの240の小分類職種を用いて、京都で平均より多い職種があげられています。
「大学教員(4.07%)、バーデンダー(3.86%)、物品一時預かり人(3.57%)、人文・社会科学系研究者(3.13%)、紡績・衣服・繊維製品製造(3.07%)、印刷・製本検査従事者(2.87%)、彫刻家・画家、工芸美術家(2.74%)」
「大学教員」「人文・社会科学系研究者」は大学が多い、学生が多い街を裏付けるでしょうし、「彫刻家・画家、工芸美術家」も大学との関連、さらに多くの寺社、文化財があることによるのでしょう。「物品一時預かり人」は「えっ」という感じですが、あくまでも比率でのこと、それにしても観光関連でしょう。紡績・衣服・繊維製品製造は「西陣」「友禅」の伝統を引き継ぐものと理解され、その仕事につく人が多い、にもかわらず、それが「ゆりかご都市」と結びつかないのです。
このことは、いわゆる京都の「町衆」と密接にかかわります。「町衆」とは
「京都の近代の歩みの中心であるいわゆる京の町衆の重要性についてである。町衆とは平たく言えば、中小の自営業者とその家族である。町衆は、祇園祭はいうまでもなく、中世末期から江戸期以降は京都の町の自治組織の中心であり、少なくとも近世以降の京都の歴史と伝統の体現者でもある」
京都の歴史を語るうえで絶対に欠かせない視点なのですが、その説明は容易ではありません。有賀さんの著作の副題「未完の産業都市」、つまり京都が産業都市になりきれなかったことを考えるうえで町衆の理解は欠かせないことが力説されている、というあたりにとどめておきます。