2024.01.16
『京都 未完の産業都市のゆくえ』の発刊にあたっての筆者・有賀徹さんと井上章一さん(国際日本文化研究センター所長)との対談で井上さんは京料理のことについてもふれていました。
「和食」は「日本人の伝統的な食文化」として2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。所管の農林水産省のウエブサイトをみると
「海外における日本食レストンランの増加や訪日外国人観光客からの郷土料理を食べることへの期待などに見られるように、ユネスコ無形文化遺産登録後、和食には世界から高い注目が寄せられています」
と誇らしげです。「伝統的な食文化」という印象から京都と深いつながりがありそうと考えてしまいがちですよね。
ところが有賀さん
「京都のレストラン、特に和食については、観光に関わりなく、常にゆるぎない地位を持つものであったと思われる方も多いだろうが、実はそうではない。京都の食が今日の隆盛を迎えたのは実は比較的最近、少なくとも高度成長期以降であると考えられる」
として、いくつかのデータを示します。そして
「要するに京都の飲食店の突出ぶりは、比較的近年、恐らくは1980年代以降に起こった現象であり、そのタイミングは「そうだ 京都、行こう。」などのキャンペーンの成功や、近年の外国人観光客の顕著な増加に後押しされたものであることを示唆している」
「京料理が和食の中で群を抜くものであるという一般的な認識は比較的最近のことであり、少なくとも高度成長期の頃までは、大阪がその位置にあったことは、関西では一般的な認識であった」
「郷土料理としての京料理の一番の特徴は、豊富な蔬菜と塩干物を利用した「いもぼう」のような「炊き合わせ」に代表される、質素な家庭料理にある。それらは確かに誇るべき和食の重要な一部ではあるが、今日の京料理の飛躍の主役ではない」
あれあれ、ですね。
「ところで今日、京都関連の書籍を繙(ひもと)くと、「京料理」という言葉が頻繁に目につく。ただこの語が一般に広まったのは、有賀健氏の『京都』(新潮選書)によればごく近年のこと」
しっかりと参照されています。そして
「ならば戦前はと史料を繰ると、京都の料理は東京風の料理、つまり「東京料理」と対比して、「西京料理」と称されることが多い。そしてその内容はやはり川魚類が主流だったらしく、たとえば大正十二年刊行のレシピ本『割烹秘典』には、西京料理の例として鮎と瓜の膾(なます)や鰉(ひがい)という川魚のつけ焼きなどが載っている」
鰉(ひがい)という名前は初めて聞きました。検索してみると、もともとは琵琶湖特産の魚で、今もメニューとして提供する料理屋さんがあるようです。それにしても『割烹秘典』、秘典です。すごいタイトルですよね。