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BLOG校長ブログ

2024.02.01

法隆寺はどう研究されてきたか ①

法隆寺と聖徳太子について書いてきましたが、そもそもの発端は法隆寺金堂の火災が文化財防火デー(1月26日)制定のきっかけになったことでした。その際、インターネットで「文化財防火デー」を検索していたら思わぬものが上位に出てきました。X(旧ツイッター)の東京大学の公式アカウントが防火デーについて触れていました。

この公式アカウント、「東京大学の取り組み、活動状況をお知らせします」というねらいだそう。もちろん、大学としての情報発信はいいことなので、その取り組みがどうこうではありません。ただ、なぜ防火デーで、という驚きです。引用します。

今日、1月26日は文化財防火デー。75年前の1949年1月26日、法隆寺金堂で発生した火災によって貴重な壁画が焼損したことを機に定められました。世界最古の現存木造建築である法隆寺を建築学的に考察した研究が、のちに東京帝大教授となる伊東忠太が1893年に発表した「法隆寺建築論」です。

前段は防火デーの説明なので特段のことはないのですが、驚きは、後半に伊東忠太がでてくることです。伊東は日本の建築史を語るうえでふれないわけにはいかない重要人物です。例えば「Architecture」の訳語「建築」を提唱し定着させたのは伊東とされています。伊東が東京帝大に入学した時は「造家学科」であり、後に「建築学科」になります。

伊東が手掛けた代表的な建築物としては京都・平安神宮や東京・築地本願寺などがよく知られています。

この伊東が法隆寺と深い関係にあることはまちがいありません。ただ、字数に限りのあるXなのでやむを得ないとは思いますが、この書き方はちょっと中途半端かと。なぜなら、ということをここから書いていきます。

法隆寺と伊東とのかかわりについては取り上げたい著作があります。いくつか紹介していきます。

まずは導入としてこれ。つい最近発刊されたばかり。建築史のコンパクトなまとめが書かれていて、建築史で欠かせない人物、当然のごとく伊東がでてきます。

『日本の建築』(隈研吾、岩波新書、2023年)

2021年の東京でのオリンピック・パラリンピックの主会場となった国立競技場を設計した隈研吾さんの著作です。近代・明治にヨーロッパなどから入ってきたいわゆる西洋建築とそれ以前からある国内の建築様式が並行する建築史を紹介する中で、伊東忠太をとりあげています。

「東大建築学科で教鞭をとっていた僕の立場からひと言付け加えさせてもらえば、お雇い外国人のジョサイア・コンドル(一八五二~一九二〇)を中心とする、西欧建築の教育機関としてスタートした工部大学校(後の東京大学)建築学科には、伊東忠太(一八六七~一九五四)という反逆者がいた」

「伊東は法隆寺が日本最古の寺院建築であることを実証的に示し、さらに法隆寺の柱の中心部の膨らみが、古代ギリシャ建築のエンタシスに由来するという説を唱えて(一八九三)、建築界を超えた広い反響を得た。伊東は何の具体的根拠も示さずに突如、このエンタシス説を発表した。にもかかわらず、人々はこの珍説に飛びついたのである。武田五一に通じる京都の和辻哲郎の『古寺巡礼』(一九一九)で紹介されたことで、伊東の珍説は専門家を超えて、人々を興奮させた」

教鞭をとっていた、とありますが、東大建築学科で学んだ隈さんにとって伊東は大先輩でもあります。

伊東についての、簡潔にして的確なまとめだと思いますが、このエンタシス説がどう評価されたかが書かれていません。まあ「珍説」と書いてあることで推測してくだい、ということか。それならば、もっとストレートに書かれた本を次に取り上げなくてはなりませんね。

余談ではありますが

その1
隈研吾さんの作品となると、どうしても国立競技場がでてきますが、最近では母校の新校舎を設計し、話題になりました。神奈川県鎌倉市にある栄光学園(中学・高校)です。公式ホームページで校舎を紹介しています。こちらから

その2
隈さんが「武田五一に通じる・・・」と、さらっと書かれていて、ちょっと嬉しくなりました。
武田五一(1872~1938)は関西を中心に活動した建築家で、「関西建築界の父」などと呼ばれることがあるとか。私がかつて仕事をしていた毎日新聞社の京都支局のビルが武田の設計で1928年(昭和3)に建てられました。京都市登録有形文化財に指定されています。新聞社の支局は現在別の場所に移転し、元のビルはそのままギャラリー・レストラン・フリースペース(「アートコンプレックス1928」と呼ばれています)などとして活用されています。
「だからどうした」ではありますが。

京都府観光連盟の公式サイト「京都府観光ガイド」で「アートコンプレックス1928」として建物の由来などが紹介されています。
こちらから