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BLOG校長ブログ

2024.02.09

法隆寺はどう研究されてきたか ⑥ そしてエンタシス

「法隆寺のエンタシスから遥かギリシャを思う」という「気分」は、学術的にはともかくとして根強いものがあるということがいくつかの著作でふれられており、それをたどってきました。そういえば「観光ガイドなんかはどうなのだろうか」との疑問がふとわいてきました。まずあえて古いガイドをひっぱりだしました。おおよそ半世紀前です。

『別冊るるぶ愛蔵版3 奈良の旅』(1978年 日本交通公社出版事業局)

旅行ガイドとしてすぐに思い浮かぶであろう『るるぶ』です。出版元として日本交通公社出版事業局とあります。若い人にはピンとこないかもしれませんが、日本交通公社は旅行業大手JTBの前身です。この奈良の旅編では「斑鳩」というくくりで法隆寺が紹介されています。その一部です。

しかしながら、いま眼に見える中門には飛鳥時代の様式が伝えられている。下から三分の一ほどが最も強く張り出した胴張りをもったたくましい柱、ギリシャの神殿のエンタシスを思わせる手法である」

なかなかうまい表現ですよね。ギリシャにストレートに結びつけてはいない、一方で、はるかギリシャを思い起こさずにはいられない書き方、法隆寺はそんなロマンをかきたてる場所なのだと伝えているわけです。もちろんこの項の筆者が「エンタシス説」の研究史を理解したうえで書いているのかどうかは不明です。

では、最近の観光ガイドブックにはどう書かれているのでしょう。

『るるぶ奈良 ’25』(JTBパブリッシング、2024年)

同じ『るるぶ』の奈良編の最新版です。電子版で確認しました。やはり「斑鳩」というくくりで法隆寺が紹介されています。古い『るるぶ』では「中門」についてでしたが、ここでは「金堂」の説明文にこんなくだりがありました。(中門そのものが特筆されていませんでした)

「西院伽藍の中心で、世界最古の木造建築。中央部が丸く膨らんだエンタシスの柱などに飛鳥様式を伝える」

お見事、とひとりごとが出てしまいました。ギリシャこそ出てきませんが、柱の一部が膨らんでいるという意味での「エンタシス」という言葉をさりげなく使っています。そこは学術的に突っ込まれることはない。とはいえ、やはり「エンタシス」という単語で何やら「法隆寺は特別」感が出ているようにも読めてしまう、「エンタシス」という「言葉の魔力」を感じてしまったのですが、いかがでしょうか。


法隆寺をお参りした際の写真を探しましたが、中門は撮っておらず、金堂も柱がわかるようなものはありませんでした。そうしたらこの写真が目にとまりました。金堂や塔をぐるりと取り巻く回廊です。中門から繋がってもいます。いかがでしょう、柱の中央部が膨らんでいますよね。

余談ではありますが この価格差は?

1978年発行の『るるぶ 奈良編』ですが、私自身はまだ学生、その時に購入してずっと持っていたわけではありません。場所は覚えていないのですが古書店で見つけました。かつて観光地がどのように紹介されていたのか、かつての人気スポットと最近の人気スポットは異なっているのかなどがわかると面白いなということで手を出しました。

本を開くと、ところどころカラー写真が掲載されているものの大半がモノクロ写真。定価は1300円とあります。

そして最新版です。『’25』とあるので、2025年、これから1年間先取りの内容といった意味合いなのでしょう。当然のごとくほとんどがカラー写真です。そしてなんと価格が1150円(税込)! おおよそ半世紀前より安価なのです。

「1978年版」は「愛蔵版」とあるのでスペシャルということしょうから、今回あげた最新版と単純に比較していいのかは慎重にならなければいけませんが、「それにしても」ですよね。

気づかれたでしょうか、1978年版には「定価」と書かれていました。最新版は「税込」です。そう、1978年に消費税はなかったんです。消費税は1989年(平成元年)に3%でスタートしました。