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BLOG校長ブログ

2024.02.27

続・屋根と庇(ひさし) 東野高校建築論 ⑤

隈研吾さんの著書に触発され、本校の教室などの建物の屋根のでっぱりや庇のことを考えていたら、そういえば、ここではどう書かれているのだろうと気になった著作を思い出しました。

『陰翳礼賛』(谷崎潤一郎、角川ソフィア文庫、2014年初版、2023年19版)

表題作の『陰翳礼賛(いんえいらいさん)』などの短編が収められています。谷崎が『陰翳礼賛』を書いたのは1933年、その後文庫も含めていくつかの本が出ていますが、井上章一さんが解説を書いているということで角川ソフィア文庫版を選びました。

裏表紙の解説にはこうあります。

「日本に西洋文明の波が押し寄せる中、谷崎は陰翳によって生かされる美しさこそ「日本の美」であると説いた。建築を学ぶ者のバイブルとして世界中で読み継がれる表題作(陰翳礼賛のこと)」

建築を学ぶ者のバイブルかどうかはともかく、日本の伝統的な建築や京都の町家などを語る時によく引用される作品であることはまちがいありません。

「私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内されるごとに、つくづく日本建築の有り難みを感じる」

こんな一節があります。谷崎は快適な厠=トイレの条件として「ある程度の薄暗さ」をあげるのです。この厠トイレはほんの一例ですが、谷崎はこの小編で、西洋の建築と比較して日本の伝統的な建築では意図的に「陰翳(旧漢字)=陰影」つまり影が作り出され、その影、薄暗さの中で日本の美意識が形作られていった、こんな見方を披露しています。

こんなくだりもあります。

「私は建築のことについては全く門外漢であるが、西洋の寺院のゴシック建築というものは屋根が高く高く尖って、その先が天に沖(ちゅう)せんとしているところに美観が存するのだという。これに反して、われわれの国の伽藍では建物の上にまず大きな甍を伏せて、その庇が作り出す深い広い陰の中へ全体の構図を取り込んでしまう」

「寺院のみならず、宮殿でも、庶民の住宅でも、外から見て最も眼立つものは、ある場合には瓦葺き、ある場合には茅葺きの大きな屋根と、その庇の下にただよう濃い闇である」

「日本の屋根を傘とすれば、西洋のそれは帽子でしかない」

「横なぐりの風雨を防ぐためには庇を深くする必要があったであろうし、日本人とて暗い部屋よりは明るい部屋を便利としたに違いないが、是非なくああなったのであろう」

「が、美というものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った」

谷崎は、日本だって明るい部屋の方がいいのだが、特徴ある気候への対処として庇を深くした、その結果、陰翳が生まれてそこに美を発見した、としているので、隈さんの解説と直接結びつくわけではありませんが、建築の特徴が外形的なものにとどまらず、文化にも影響を及ぼすというところが、建築を学ぶ人たちをひきつけたのでしょう。

もちろん学校の教室に、谷崎がいうところの日本の伝統的な陰翳を求める理由はなく(むしろ明るい方が勉強にはふさわしいでしょう)、本校の建物のひとつ一つの設計で「陰翳」が意識されたことはおそらくはなかったでしょう。でも、そんなことまで考えさせられる奥の深い魅力あるキャンパス、建物群だということを知っていただけたら。

こんな見方もあるのだということが今後、校内を巡る際の参考になれば嬉しいです。

/本校では2021年、「雨の日に不便」という生徒の要望に応えて教室などの入り口に庇を新設しました
/それまでの教室入口。扉は木製でした
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寺院でも宮殿でも最も目立つのが大きな屋根、と谷崎。京都・知恩院の三門(写真左)、京都御所(右)