2024.04.09
京都に関わる歌を集めた企画もののCD、その中の「京都の恋」「京都慕情」は渚ゆうこさんが歌っていました。私が京都の歌を最初に意識したのはこのあたりかと。ベンチャーズの曲ということは当時から知っていました。いや、すでにここまでで今の若い人には「なんのこっちゃ」ですね。
CDの解説文を読むと、1970年の大阪の万博を記念してベンチャーズが発表した曲に日本語詞を後からつけたとのこと。欧陽菲菲さんの「雨の御堂筋」(71年発表)などと並んで「ベンチャーズ歌謡」と呼ばれたそうです。ちなみに欧陽菲菲さんの方は「御堂筋」、大阪です。蛇足ながらベンチャーズはエレキギターをフューチャーしたインストルメントバンド(歌がない)で、日本にエレキブームを巻き起こしました。
この渚ゆうこさんあたりが「ポップス」(というか演歌?)とするとフォークソングというジャンル分けでは「加茂の流れに」はかぐや姫、メンバーは南こうせつ、伊勢正三、山田パンダさん、赤い鳥の「竹田の子守唄」。こちらはもはやスタンダートといってもいい曲で、みなさん聴いたことがありますよね。
またまた蛇足ながら、グループ・赤い鳥は代表曲として「翼をください」がさらに著名。
もうきりがないですが、小柳ルミ子さんが何曲か入っているのがちょっと意外でした。小柳さんは福岡県の出身、デビュー曲は「わたしの城下町」だし、代表曲は「瀬戸の花嫁」、京都との接点は特になさそう。では「京のにわか雨」というと作詞は著名な、なかにし礼さん、こちらも京都とは縁がなさそうです。
もちろんこのCDに収められた曲はつくられた時期が異なるので、まとめての感想は難しいのですが、とにかく「別れ」にかかわる詞が多い、失恋した女性がやたらとでてくるようです。
「恋に疲れた女がひとり」(女ひとり)
「さがす京都の町に あの人の面影」(京のにわか雨)
「京都の町は それほどいいの この私の 愛よりも」(なのにあなたは京都へゆくの)
「あなたを追いかけ 京都にひとり」(泣きぬれてひとり旅)
いやはや、京都は幸せいっぱいの人が出かけてはいけない街なのでしょうか。まあ、恋(失恋)の歌は平安時代の和歌からの伝統かもしれませんが。
(というか、企画した方が京都の歌にそういうイメージを持っていたか、あるいは意図的にそういう歌を集めたか、かもしれません)
こういう風景、風情では、やはり「恋のうた」になるのでしょうか
もうひとつ、タイトルでも「三年坂」「嵯峨野」木屋町」がでてきますが、歌詞に出てくる地名をみても、これでもかという有名観光地。「高瀬川」「嵐山」「桂川」「大原」「清水」「八坂神社」、行事がらみでは「祇園祭」「長刀鉾」「都おどり」、かなりマニアックなところでは「京都嵯峨野の 直指庵」「雨の落柿舎 たんぼ道」(いずれも「嵯峨野さやさや」)、なんと「京都タワー」まで、さすがに昇ってはいないようです、「雨にかすむ京都タワーは とってもきれい」、そうでないと風情はないか(「京都にさよなら」)
まあ京都を歌にする以上、このように誰でも知っている地名が入るのは当然といえばそうだし、それがあるからこそ詞になりやすい、ということもあるのでしょうね。
余談ではありますが
みうらじゅんさんが、渚ゆうこさんの大ファンだったと、少年時代を振り返ったエッセイ本で語っていました。みうらさんは私とほぼ同年代、ただ京都育ちなので、京都のうたの入り方はだいぶ異なるでしょうが。
なんておおげさな、というわけではありませんが、ベンチャーズのエレキサウンドにはまってしまった青春(高校生)を描いた『青春デンデケデケデケ』(芦原すなお、親本1991年、河出文庫版あり)があります。映画化もされたので調べてみたら監督はなんと大林宣彦。ただし小説、映画の舞台は香川県、大林宣彦の故郷で代表作「転校生」などの舞台ともなった広島県・尾道とは瀬戸内海を挟んですぐ向こう側です。
その、かつてのバンド少年たちのその後を描いたのが『デンデケ・アンコール ロックを再び見出し、ロックに再び見出された者たちの物語』(作品社、2021年)。最近読んだせいもあるけど、こちらの方が青春のほろ苦さでジジイ(私のことですよ)には印象が強いですね。
この「デンデケデケデケ」ですが、ベンチャーズによって知られるようになったエレキギターの奏法を表現したもので、そもそもカタカナ表記が難しく、「テケテケ」とかいろいろな書かれ方をしたように記憶しています。芦原さんにはこのように聴こえた?
肝心のベンチャーズですが、芦原さんは1949年生まれで私よりけっこう年上、ご自身の年齢とベンチャーズとの出会いのタイミングで、高校生がベンチャーズにはまるという実感は持てたのでしょう。
私はベンチャーズとの同時代での出会いはありませんでした。いわば、後付けの知識、後から「ベンチャーズも聴いてみた」。昨年か一昨年かベンチャーズの相当数の曲を収めたCDを買って聴きました。2枚組だったか、歌もなくギターでメロディーを弾く曲ばかりなので、率直なところ全曲続けて聴くのはきつかったです。