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BLOG校長ブログ

2024.04.11

「ご当地ソング」考 ④ ーー店名もあり?

「ご当地ソング」というくくりで、具体的な地名が出てくる歌についてあれこれ書いてきたわけですが、さらに行きつく先として、実在するお店の名前が使われるのも広い意味での「ご当地ソング」と言ってもいいかもしれません。

具体的な店の名前が出てくるいうことになると、やはり1970年代ごろから登場してくるシンガーソングライターの曲となってくるのでしょう。というか、最近の曲に好例があるかどうか知らないという年寄りの事情もありますが。

おさらいです。1970年代あたりまでの日本の音楽シーンは、レコード会社所属の作詞家や作曲家が作った歌をプロ歌手が歌うことが当たり前というか、それがほぼすべてでした。歌謡曲などと呼ばれました。そこに、自分で歌を作って(作詞作曲して)なおかつ自分で歌う、ギターを弾いたりピアノを弾いたりして歌うという時代がやってくるわけです。その担い手がシンガーソングライター、そのような曲はフォークソング(フォーク)やニューミュージックなどと呼ばれました。

彼ら彼女らの作る歌の多くは身の回りの生活や自分の体験に基づいて作られ、「個」の主張をはっきりと前面に出す歌でもあったため、そこが従来のプロによる歌謡曲とは大きく異なり新鮮で、特に同世代の人たちの共感を呼んだわけです。その代表的な存在としてはフォークでいえば吉田拓郎さんや井上陽水さんであり、ニューミュージックはユーミンこと荒井由実さん、中島みゆきさんなどがあげられるでしょう。

ここではやはりユーミンをとりあげます。以前、本校通学圏内に縁のあるミュージシャン、歌について書いたとき(2023年7月27日「ミュージシャンから派生してーーR16へのこだわり ①」)、国道16号線を「Route16」と歌っていることを紹介しましたが、ユーミンは固有名詞を使うセンスは抜群ではないかと思います。

好例がデビュー後2枚目のアルバム『MISSLIM』(1974年)に収められている『海を見ていた午後』。横浜のとあるレストランの名前が出てきます。かつて恋人と訪れた店でいま一人でテーブルに座っている、ソーダ水のグラスを通して遠くの海を行く貨物船が見える、という映画の一シーンのような描写で、リアリティを際立たせるには「とあるレストラン」ではだめだったのでしょう。

また4枚目のアルバム「14番目の月」(1976)収録の『天気雨』では湘南・茅ケ崎でサーフィンをする恋人であろう「貴方」とのことを歌っているのですが、サーファーがよく立ち寄るお店が出てきます。

ドラマやアニメが大ヒットして、ファンがその舞台や撮影場所を訪れる、そんな場所が「聖地」と言われたりします。最近では神奈川県にある鉄道踏切が外国人観光客も含めて大変な賑わいで大渋滞、事故の心配もあり、いわゆるオーバーツーリズム(観光が市民生活に悪影響を与える現象)を伝える際、必ずといっていいほどとりあげられます。ちょっと前は大ヒットした韓国ドラマのロケ地巡りも話題になりました。

同様に、ユーミンのような人気の歌い手が店名をあげたら、やはりファンは訪れてみたいということになるのでしょうね。

「リアリティを出すために固有名詞が必要では」と書きました。歌に限らず小説でもそうでしょうが、具体的な場所やモノが描かれると、さらにそこを知っていると、聴いていて、読んでいて、具体的なイメージがわくので、小説や歌の世界に入りやすくなるのは間違いないでしょう。一方で、そのイメージが固定化されてしまって、想像する楽しみがなくなってしまうというデメリットもあるでしょう。

朝日新聞の読書欄で「旅する文学」という連載を書いている文芸評論家の斎藤美奈子さんがつい先日、こんなことを書いていました。

「旅をした後にその土地ゆかりの本を読むと、空気感や地名に覚えがあるから不思議なほどクリアに読める。旅と読書はワンセット」

本・読書が先か旅が先かはあるにしても、どちらも一層面白くなる相乗効果は間違いないでしょうね。歌、音楽についても同じことが言えそうです。

それにしても、ご当時ソングなどと言われなくてもいいから、本校の近くの街や場所を歌った、これといった曲が生まれないかしら。誰かつくってくれないか。もしかしたらすでにある? そうならぜひ教えてください。

余談ではありますが

ユーミンが歌った横浜のレストランですが、ネット検索していたらまだお店はあるようで、そこを訪れたルポ、訪問記がアップされていました。この歌が発表されてからお客さんが増え、ユーミン本人が出かけたら満席で断られたというエピソードがファンの間でまことしやかに語られていた、と以前何かで読んだ記憶があります。都市伝説だとは思うのですが。

茅ケ崎のサーファー御用達しの店ですが先日、ドライブ中に偶然にもこの店の前を通りました。名前はもちろん知っていましたが、サーフィンの経験もなく、もちろん「聖地めぐり」をしたこともなく、「へーっ、こんな場所にあるんだ」と。「この店さ、ユーミンがさ・・・」と車内で熱弁をふるい、同乗していた家族に呆れられました。

ちなみにこの2曲が収められているユーミンの初期のアルバムですが発売時はレコード。自身はまだ学生でレコードで聴きました。もちろん、いい大人になってからCDも買い直していますが。