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BLOG校長ブログ

2024.04.16

「ご当地ソング」考 ⑦ ーー鉄道名も

ユーミン、荒井由実さんが『天気雨』で歌った神奈川県内を走る相模線について、東京在住、関東在住の人でもあまり知らないのでは、と失礼なことを書きました。都内を走りながらさらに知られていない路線が東急電鉄・池上線ではないでしょうか。その池上線が舞台の曲、タイトルもずばり『池上線』。

前に紹介した『フォークソングの東京 聖地巡礼1968ー1985』(金澤信幸、講談社、2018年)でもとりあげられているのですが、さらに詳しいのがこちら。

『うたの旅人』(朝日新聞be編集グループ・編、朝日新聞出版、2009年)

朝日新聞の土曜日別刷「be」の連載記事をまとめた本です。「あとがき」によると「毎週一つの歌を取り上げ、その歌にゆかりのある土地や関係者を訪ね、その歌が生まれた背景や時代を描く連載記事」といった内容です。『池上線』は2008年4月19日の紙面でとりあげられました。

さて、まずは鉄道の方の池上線です。五反田駅(品川区、JR山手線など)と蒲田駅(大田区、JR京浜東北線)を結ぶ10.9キロほどの路線。起終点駅を含めて駅数は15駅、全線複線で電化されていますが、電車はJR線などの電車より1両の長さが少し短い車両の3両編成ですべて各駅停車、ワンマンカーで運行されています。

安易に「ローカル線」という言葉は使いたくないのですが、「のどかな」「都内のローカル線」などと言われる路線です。関東圏の私鉄の中では「おしゃれ」とみられている東急電鉄のイメージからすると「えっ」と思う人も多いでしょう。

では歌の『池上線』の方です。1975年、西島三重子さんのファーストアルバムに収められていました。『うたの旅人』から

「当時、若者文化のトレンドは車だった。荒井由実(当時)が、東京郊外ドライブの心地よい疾走感を歌った「中央フリーウェイ」が出た七六年。同じ年、鉄道を舞台にした「池上線」は主に有線放送を通じて人気を集め、じわじわと売れていった」

そして翌76年にはシングルカットされ、80万枚を売るヒットとなり

「七〇年代のフォーク名曲集などには必ず選ばれる定番だ」

恋が終わる、別れの歌なのですが、少し古い型である池上線の電車や駅、「角のフルーツショップ」などという沿線のたたずまいの描写が効果的にです。東京で地理的には下町とは言い難い地域ですが、沿線には今でも有名な商店街があります。

印象的なのはこのくだり。

「七六年当時、「池上線」のプロモーションを考え、東急に協力を依頼したが、歌詞を知った東急側が、協力を断った」
「池上線の車両を新しくしようとしていた時期で、『古い電車』『すきま風』という詞が、会社の方針にあいませんということだったようです」

都市伝説のような話ですが、作詞した佐藤順英さんが語っていたということなので実話なのでしょう。
その後日談として2007年、東急電鉄が池上線全線開通80周年のイベントを企画、西島さんが池上線の車内でこの『池上線』を歌ったそうです。

当時の池上線の車両が青森県の十和田観光電鉄で走っていて、連載記事を担当した記者は「七〇年代の「すきま風」を体感したくて」青森まで出かけて乗車しています。「鉄ちゃん」(鉄道愛好家)でない記者にはつらい? 取材かも。