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BLOG校長ブログ

2024.05.09

『都大路上下(カケ)ル』--「ご当地小説」考 ③

さてタイトルの『十二月の都大路上下(カケ)ル』ですが、作品では「上下ル」を「カケル」と読ませています。きちんとルビもふっています。京都の街での「上下」について、これは知っている人も多いとは思いますが駅伝を舞台にした小説にふさわしく、タイトルにも意味を込めているところなので、蛇足ながら少しふれます。

京都の街中はいわゆる東西と南北の通りが碁盤目状に交差しています。そこで、ある地点を表すのにその交差点を基準に4方向で示すことができます。交差点から東に向かえば「東入」、西に向かえば「西入」、北に向かう時は「上ル」、地図的に北に向かうから「上ル」、まあ御所が北にあったからでしょう。そして南に向かえば「下ル」。これで通じるわけです。

ただ、交差点をいい表すときに東西の通りを先にするか南北の通りが先か、これはなかなか難解。つまり小説でも出てきた「烏丸通」が「四条通」と交差するところは「烏丸四条」なのか「四条烏丸」なのか、というところです。もちろん、明確なルールがあるわけではなく、例えばバス停の名称などによることが多いようです。

いずれにしても「烏丸四条」の交差点から東西の通りである四条通りを東に進んだあたりが「烏丸四条東入」、「烏丸四条」の交差点から南北の通りである烏丸通りを北に進んだら「烏丸四条上ル」と説明すれば、通じるわけです。

もちろん、これとは別に「〇〇町」という住所はあるわけですが、かなり細分化されていて東入、西入、上ル、下ルを使うことが多いです。

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札幌も明治時代にほぼ一から作られた街なので道路はほぼ東西南北碁盤目状に敷かれました。その通りには一部を除いて番号をつけたので、番号の並びでどのあたりか見当をつけやすい。ところが京都の場合、通り名にそれぞれ「由緒」があります。すぐに読めないような漢字も使われています。

東西の通りには一部「三条」「四条」のように数字が使われていはいますが、その間にもたくさんの通りがあるので、これはもう覚えるしかありません。通り名を覚えるための「わらべ歌」があり、京都の子どもたちはそれで覚えるなどと言われていましたが、今はどうでしょうかね。スマホあるし。

さてその京都の街を走る駅伝に話を戻しますが、スタートの競技場を出てから西大路通、先にでてきた「烏丸通」「丸太町通」などいろいろな通りを走ります。そして折り返して同じ競技場に戻ってきます。つまり選手たちはコースを「上ル」「下ル」「東入」「西入」するわけです。なので小説のタイトルに「上下」といれ、これを「カケル(駆ける)」と読ませる。よく考えられていますよね。

師走の一大イベント 駅伝取材

さて「全国高等学校駅伝競走大会」は昨年2023年12月の大会が男子74回、女子35回でした。小説の舞台となった女子の部は男子に遅れて始まったわけです。この女子の記念すべき第1回大会(1989年)の優勝校は市立船橋高(千葉県)でした。

大会は毎日新聞社の主催でセンバツ高校野球などと並んで長い歴史もあり、報道にも力を入れています。競技全般については運動部の記者が中心になって取材するのですが、小説中に「地元の代表として都大路を走ったんです」とあるように、県予選の段階から本番の様子まで、「地元の代表」として出場校の地域の紙面でも大きく掲載されます。

全都道府県から出場するので、当日の1チーム(1校)ごとの取材は京都支局の記者だけではとてもこなせません。そこで、上位入賞が期待される強豪校については、その学校所在地の支局などの記者が京都にやってきて取材をします。京都入りする前に地元で取材をしているので記者は選手や指導者とも顔なじみになっており、京都での本番取材もスムーズにいくという利点もあります。だいたい記者になって数年という若い記者が担当します。

事前に何度も取材しているのでその高校、選手たちへの思いも強まり、いい成績をあげて欲しいという願い、取材を忘れてつい応援してしまう、といったほほえましい光景もしばしばでした。ちなみに、センバツ・甲子園も同じような形で取材しています。

京都支局員は本来の取材とは別に、この全国から集まってくる記者たちのお世話、面倒を見るという仕事が加わるので、支局にとって年末・師走の一大イベントとなっていました。

とはいえ、支局員全員が駅伝にかかりきりとはいきません。本番中にどんなアクシデント(事故)が起きるかわかりません(幸い一度もありませんでした)、大会に関係ないところで事件事故は起きてしまいます。ということで私は京都府警本部で待機やら、また国際的な学会があってその取材で京都大学へ行ったということもありました。

その経験の中で記念すべき女子第1回の市船橋高の優勝に“遭遇”しました。何しろそれまでは男子の部だけ取材していればよかったのに女子の部ができて、男子の前に女子が走り、そこで結果が出ます。走り終えた女子選手たちに取材しているうちに男子の部が始まってしまうというあわただしさなので、女子の部、男子の部とあわせて取材を終えられるだろうかとみなで心配したことをよく覚えています。

陰の立役者はタクシーの運転手さん?

さて、男子は7人、女子は5人でタスキをつなぐので中継点があります。「烏丸通」の読み方のやりとりで触れたように、前日に部員らが下見して中継点を確認し、走る選手とは別に応援の部員も中継点ごとに配置されるのが通例です。

正月恒例の箱根駅伝はテレビ中継で見る方も多いでしょうが、高校駅伝の一番の違いは、監督(顧問)の競走が始まってからの役割です。箱根駅伝では出場大学ごとに車が用意されて監督らが乗り込み、選手に伴走することが可能です。車から声を出して選手に直接声をかけることができます。しかし、高校駅伝ではそれはできません。50人近い選手が走るのですから車を出すことは不可能です。ではどうするか。

コース途中の中継所とか、ここぞというポイントに先回りして、そこを通過する選手(ランナー)に声をかけることになります。「先回り」と書きましたが、コース周辺はもちろん交通規制が敷かれています。ここで「上ル、下ル、東入、西入」を思い出してください。

箱根駅伝のように東京から箱根に向かって一直線でなく、都大路の駅伝コースは結構曲がります。わざわざ遠回りしていると言ってもいい。そこで車でショートカットするとコースを先回りして何か所かで走る選手を迎えることができるのです。ただ、そのためには都大路の道路を熟知していなければなりません。出場常連校はベテランのタクシー運転手さんと昵懇になりタクシーを借り上げます。「今年もよろしく」と。そのタクシーで先回りするのです。最近はどうですかね。