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BLOG校長ブログ

2024.05.13

太陽フレアと地球科学

太陽表面で起きる爆発現象「太陽フレア」によって全地球測位システム(GPS)や無線通信などに障害が出る恐れがあるというニュースが伝えられています。ちょうど読んだばかりの本に関連するくだりがあったので、ニュースも一段と興味深いものでした。

『知っておきたい地球科学--ビッグバンから大地変動まで』(鎌田浩毅、岩波新書、2022年)

「地球・生命」「環境・気象」「資源・エネルギー」「地震・津波・噴火」と幅広いテーマで章立てされいて、「地球・生命」の章で副題にあるビッグバンから太陽系の成り立ち、そして地球と太陽との関係が説明されます。

「地球は北極付近をS極、南極付近をN極とする巨大な磁石であり、北極と南極付近から「地磁気」と呼ばれる磁力線が出ている」
「地磁気は宇宙に充満する有害な宇宙線などから地球を守っているが、その強さは一定ではなく、過去二〇〇年に約九%弱くなった。(略)こうした地磁気の弱化は人工衛星や宇宙船の運行に致命的な誤作動をもたらす恐れがある」

太陽フレアによって放出されるガス(プラズマ)が太陽から地球に大量にやってきて地磁気を乱すということです。ここに書かれているように、地磁気が地球を守っている、つまり、地球上の生命を守っているという言い方も可能で、地球上の生命の危機となると大変深刻な問題ですが、そこまで至らないにしても今回のような通信障害など社会生活に影響を与えることがあるわけです。

地球で、人類を始め多様な生命がはぐくまれることが可能になったのは太陽の存在があったからです。その太陽からは迷惑なものも時にはやってくることが避けられないのですが、それを防ぐために地球には磁力線が出ている、実によくできた仕組みだといってもいいでしょう。

記事には「北海道、東北、日本海側でオーロラ」という見出しもついていました。
「実は、地磁気は太陽風を完璧に防いでいるわけではない。南極や北極など高緯度地域には、太陽風を通す「窓」がある。この窓から磁気圏に侵入した太陽風は、上空の大気と衝突して光を発する。これが夜空を美しく飾るオーロラ現象の正体である」

「南極や北極など高緯度地域」でよくみられるオーロラが北海道や東北、日本海側のような中緯度でも見られたということは、それだけ強い太陽風が届いているということでもあります。限られた地域でしか見られないということでアメリカのアラスカ州に出かけるオーロラ観光などもあるわけですが、日本国内でもオーロラが見られたと喜んでいいのかどうか、ちょっと微妙ではありますね。

さて本のタイトルにある「地球科学」ですが、以下のように説明されています。

「地球の成り立ちを研究する学問は地球科学と呼ばれ、高校の教科では地学として教えられる」
その特徴については
「地球の歴史の過程ではおびただしい数の偶然が作用しており、「再現性」という科学の基本がほとんど成り立たない。「地球」という宇宙空間で唯一無二の物質を扱うからだ。これが、物理や化学ともっとも異なる点である」
「すなわち、地球科学には歴史科学という特徴がある。(略)そして地球の歴史は、世界史を構成する国家ができる前、さらに人類や生命そのものが誕生する以前の歴史を対象とする」

なるほど、ですが、「世界史を構成する国家」ができた後についても、勉強になったところがいくつかありました。例えば
「地球温暖化が世界中の喫緊の課題となっているが、地球上ではそれをはるかに上回る寒冷化現象がときどき起こる。歴史を振り返ると、大規模な火山噴火が気温低下を引き起こし、地球温暖化に一定のブレーキをかけた事例がある」

1783年6月にアイスランドのラカギガル火山で「割れ目噴火」が起こり、世界的な寒冷化をもたらした。ヨーロッパでは平均気温が約1度下がり、食料不足が起きる。さらに驚くべきことに

「1783年は遠く離れた日本でも全国的に厳しい不作となった。いわゆる「天明の大飢饉」である」
「日本史の解説書には、天明の大飢饉は浅間山の噴火によって引き起こされたと記述したものがあるが、同年に起きたアイスランドでの大噴火が原因である」

そのアイスランドは最近でも活発な火山活動が続いていて、アイスランド大使館の公式ホームページによると、今年3月16日に起きた火山噴火で周辺に緊急フェーズ(緊急事態宣言)が出されました。

再び鎌田さんの著作から引きます。

「アイスランドは噴火と地震が一緒に起きる世界一の変動帯である。二〇一〇年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山で水蒸気噴火が発生し、ヨーロッパ一帯に大きな経済被害をもたらした」

火山灰が広がりヨーロッパの広い地域で長期間、航空機が飛べなくなりました。このニュースは記憶にあります。物流が止まったことによる「経済被害」ということですね。

なお、この鎌田さんの本は『週間エコノミスト』連載の『鎌田浩毅の役に立つ地学』をもとにまとめたものです。現在も連載中です。

毎日新聞の記事「最大級の太陽フレアが7回連発 各地でオーロラ、北海道でも観測」、電子版はこちらから

国立科学博物館の公式サイトに太陽フレアの説明があります。こちらから


観測された大規模な太陽フレア(米航空宇宙局=NASAの公式ホームページより)