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BLOG校長ブログ

2024.05.14

はまった! 万城目作品 ①

万城目学さんが直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)を紹介しましたが、ひとりの作家の連作、シリーズ本を途中から読もうとしたとき「いやいや最初から読もう」といったん手にした本を置いておいて後回しにすることがままあります。また、作家で選んで読もうとする時もわざわざデビュー作に立ち戻って読むことも少なくありません。

実は今回も同じで、『八月の御所グラウンド』を購入したもののすぐに読まずに、万城目さんの事実上のデビュー作となった『鴨川ホルモー』を思い出したのです。

その単行本が書棚にあるのは時々視野に入っていたのですが、つい急ぎで文庫版を買い直し「思い出しながら読むか」とページをめくり始めました。ところが内容は新鮮なままで、あっというまに読み終えて「どうもおかしい」、というわけで後で書棚から単行本をひっぱりだしたら本にはくせがついていなくてすごいきれい、「これは読んでないな、積ん読だった」と反省しきり。でもいい本に出合えて「大当たり」だったのでよしとしました。これをきっかけにすっかり万城目作品にはまってしまいました。

『鴨川ホルモー』(角川文庫、2009年初版、2023年23版)

さて『鴨川ホルモー』、単行本は2006年発行、2009年に文庫化されています。重版をみるとロングセラー、よく読まれているのですね。映画にもなりました。

とにかく「おもしろかった」、これにつきます。「鴨川」とあることから「京都」に関係するストーリーだということはわかりますが、では「ホルモーとな何か」ということになります。文庫本の解説や書評などではそのあたりから説明に入っていますが、内容紹介を始めるときりがなさそうなので、万城目さんの二作目にあたる『鹿男あをによし』の幻冬舎文庫版(2010年初版、手元は2018年18刷)に収められている俳優・児玉清さんの「解説」から引用します。児玉さんは大変な読書家としても知られています。

「そもそもの万城目小説との出逢いは、彼の本格デビュー作となった「鴨川ホルモー」だった」

「さて、読みはじめたら、どうにも止まらなくなった。(中略)京都を舞台に構築された物語の奇天烈さに僕は唖然としたが、この街は何もかも呑み込んでも不思議ではない幾重もの時のヴェールに包まれている。オニがいても決して不思議ではない。オニの使い手としての技術を代々継承し、京都の四つの大学の学生たちが合戦を繰り返す奇想天外な超常現象物語は、読み進めるほとに僕の心を虜(とりこ)にしていった」

「オニ」がキーワードであり、「奇想天外」「超常現象物語」などと聞くと何やらおどろおどろしいストーリーを想像してしまいそうですが、登場人物は普通の大学生で恋愛あり失恋ありの青春物語でもあります。

解説にあるように京都の四大学、いずれも実在する京都大学、京都産業大学、立命館大学、龍谷大学がでてきます。そしてサークル名が京大「青竜会」、京産大「玄武組」、立命館「白虎隊」、竜谷大「フェニックス」。京都には大学がたくさんあるのになぜこの4校なのか、そしてこの独特のサークル名は何なのか、京都大は万城目さんの母校なのでまあそうかと、四つの大学の位置関係とサークル名がストーリーに大きく関わります。

『八月の御所グラウンド』同様、『鴨川ホルモー』もミステリー小説ではないのですがネタバレになると興味が薄れる心配もあるので、本筋についてはあれこれ書かず、万城目学さんの「京都愛」がにじみ出ているあたりをいくつか紹介します。

主人公の「俺」は西の方出身、二浪の末京都大に入学した1回生。一人暮らしを始めました。これはよく知られているでしょうが、関西では大学生は1年生、2年生と呼ばずに1回生、2回生と呼びます。よって先輩上級生は上回生、これは私にはなじみがなかったです。

その俺が入部したサークルが「京都大学青竜会」。そのサークル仲間の名前にニヤリとさせられるのです。そもそも「俺」は安倍、そう陰陽師の安倍晴明(あべの・せいめい)からでしょう。児玉さんの解説にある「オニの使い手」という点で陰陽師、陰陽道はこの作品に欠かせない要素でもあります。

そしてサークル仲間。「高村」は明治の彫刻家、高村光雲(たかむら・こううん)をすぐに思い浮かべますが、同じ「たかむら」ならばこちらの「篁」、小野篁(おのの・たかむら)ではないか。平安時代初期の公卿で百人一首では参議篁(さんぎたかむら)と称されます。篁は昼間は役人ながら夜は冥府(あの世)で閻魔大王のもとで裁判の補佐をしていたという伝説が残されているミステリアスな人物です。

「俺」が恋焦がれるのが「早良京子」。「さわら」と読ませて、これはもう早良親王。平安京をつくった桓武天皇の弟ですが、謀反の疑いをかけられて追放されて亡くなり、その祟りとされる災害が平安京に次々と起きます。このほかに「三好兄弟」は三好長慶からだろうし、「俺」のピンチを救う「楠木ふみ」、これはもう楠木正成でしょう。

単に平安京、京都を連想させる名前というだけでなく、その役割が歴史上の人物の功績と微妙にオーバーラップしているところもあり、読んでいてニヤリをさせられます。