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BLOG校長ブログ

2024.05.16

はまった! 万城目作品 ②

万城目学さんの『鴨川ホルモー』では平安京、京都にちなむ登場人物の名前がストーリーに深くかかわっていると思わせぶりに書きましたが、小説の中では京都の実在地名も次々とでてきます。主人公の「俺・安倍」が京都大のサークル「青竜会」入部の勧誘を受けて迷っている時に、何をするサークルなのかわからず友人たちとかわす会話。

「大文字山に登ったり、琵琶湖にキャンプに行ったり、結構アウトドアっぽいことをするみたい」
そして実際にサークルで行われるのが

「大文字山ハイキング、嵐山バーベキュー、比叡山ドライブ、琵琶湖キャンプーー五月下旬から七月上旬にかけて行われた京大青竜会主催の野外レクリエーション活動の数々」

小説のサークルに限らず、京都の大学生にとっては、まさに定番のレクリエーションでしょう、おそらく。このサークルのメンバーの集まる場所が三条木屋町の居酒屋「べろべろばあ」。さすがに実在はしないのでしょうが、「あのあたりだな」とその界隈を思い浮かべ、ひとり笑みがこぼれるのでした。

こんなくだりがありました。

「ズボンの内側にしっかりとしまいこまれたシャツ。ジーンズなのに、おっさんのような黒の革ベルト。別に思索に耽っているわけではなく、ただの猫背。別に急ぎの用があるわけではなく、ただの外股。(中略)京大生が世間の服飾の流行にまったくついていけない自らの性質を自虐的に表現した、イカキョー(“いかにも京大生”の略)そのものではないか」

万城目さんが京大OBだからこそ許される? 自虐ネタなのかもしれません。

このくだりで思い出したのが同じように東大生のファッションを揶揄した言葉「コマトラ」でした。「ハマトラ」とかは聞いたことありますかね。「横浜」の「ハマ」、「トラ」は「トラディショナル」、伝統的な慣習的なといった意味。1970年代~80年代に横浜で流行ったファッションの言い方で、それをもじっています。「コマ」は東大の前期教養課程で通う「駒場キャンパス」のこと。「ハマトラ」は流行の最先端、それに比べて「駒場キャンパスの学生は……」。受験勉強でファッションなんか考えたこともなかったわけです。

『ホルモー六景』(角川文庫版、2010年初版、手元は2024年23刷)

単行本発刊は2007年、「鴨川ホルモー』発刊のすぐ翌年で、いわゆる「スピンオフ作品」。続編ということなのですが、そのまま続けるというより、もともとの作品(本篇と仮に呼びます)の脇役を主人公にしたり、後日談だったり、すこし目先を変えた続編を「スピンオフ作品」と呼ぶことが多いようです。『ホルモー六景』もタイトル通り短編6編で構成され、本篇ではもっぱら語られたのは京都大青竜会だったので、ここではライバルである京都産業大玄武組の話しだったり、サークルメンバーの恋愛話だったりの小編となっています。

京都大青竜会のメンバーがかつてつきあっていた彼女は本篇でちらっと出てくるのですが、六景のうちの1編「同志社大学黄竜陣」に登場します。京都大の彼を追うように浪人しながらも故郷を出て京都の同志社大学に入るのですが、なかなかふっきれない元彼に向かって吐くセリフがこんな感じ。

「い、いい加減にしんさいよ・・・」
「そっちがへなへな情けない声だすけぇ、しょうがないけぇ、付き合ってやったんよ。ほんま、セコい男じゃ。そんなん、彼女と別れてから言ってきんさい。それじゃのに、彼女のことまで、私のせいにして。ほんま、最悪じゃ。お前なんか、男のクズじゃッ」

ここ読んで、思わず笑ってしまいました。怒った彼女から思わず故郷の言葉づかいが出るわけですが、すぐに彼女がどこの出身かわかってしまう、はい、かつて私が仕事をしていた地域で当たり前に耳にしていた響きでした。

本篇に登場する4大学は京都大、京都産業大、立命館大、竜谷大でした。京都を代表する大学といえばはずせない一つが同志社大でしょう。本篇を読んだ同志社関係者は複雑な気持ちだった、抗議した? そこで万城目さん、スピンオフ作品で同志社にもスポットをあてたか、今出川キャンパスだけでなく田辺キャンパスのことも丁寧に描いています。考えすぎでしょうが。

本篇の紹介のところで、登場人物の名前におそらく万城目さんのこだわり、遊び心があるのだろうと紹介しましたが、六編でも笑わせてくれました。
京都産業大玄武組をひっぱる二人の女性リーダー、その名前が定子に彰子、今年のNHK大河ドラマをご覧の方にはすぐピンときますよね。「平安京」です。ちなみに六編では読み方は「さだこ」「しょうこ」としています。