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BLOG校長ブログ

2024.05.17

はまった! 万城目作品 ③

さて、前にも紹介しましたが月刊雑誌『文藝春秋』の五月号で元NHKアナウンサーの有働由美子さんが万城目学さんにインタビューした記事が掲載されています。そこでの、京都を小説の舞台にしたことについてのやりとり。ちょっと長いですが、ここはぜひ。

有働 京都を舞台にすると、京都の人に「ちょっと京都に住んだだけで京都をわかったと思うな」と言われるんちゃうかと、同じ大阪出身としては気になります。
万城目 大学時代の五年間住んでいただけですからね。京都が“いけず”なのは間違いなくて、デビュー作『鴨川ホルモー』の時は書店さんを回って「京都を舞台に書いたんです」と伝えても、喜んでくれるどころか「何それ」「あ、そう」

有働 突き放してきますね~。
万城目 東京や大阪は売れてへん時から優しいんです。京都は死ぬほど冷たい。(略)“お客さん”である学生には無条件で優しいけど、社会人になるとフラットな関係になる。そしてこちらの実績を認めると一転、すごく優しくなるんです。

京都で仕事をしているころ、もう30年も昔の話ですが、やはり万城目さんの言うように、「京都の人は学生には優しい、しょせんお客さんだから、住むとなったら・・・」といった趣旨の話を聞くことがたびたびありました。誰かがつくった「いかにも」という話だろうと半分聞き流していましたが、どうでしょうか。

もう一か所、直木賞をとって変わったことについてのやりとり。

万城目 受賞という話題があると、人との壁が取り払われるのはよかったです。(略)東京のいいところは適度の距離感で止まるところ。大阪やったら二言目に「いくら儲かった?」と絶対言われるんですよ。
有働 私も大阪育ちですけど、本当に大阪人の挨拶ですからね

ちなみに万城目さんがいう「いけず」ですが三省堂国語辞典第七版によると
「[関西方言]いじわる(な人)。「あの人ーーやわ」

三省堂現代新国語辞典第六版では
「[関西で]意地悪く勝手なこと。また、その人。「ーーやわ」

『京都語辞典』(井之口有一・堀井令以知、東京堂出版、1975年初版、参照は86年7刷)
こうい辞典があるんです。京都で仕事する上で参考になると購入したのだと思いますが、ほとんど使わなかったような。何十年もたって参照するとは。
「いけず」についてはずばり「意地悪」。用例として
「アイツはイケズばっかりしやがる」(男性)、「あの人は、イケズしヤハルし、カナンわ。」
男女別で掲載されています。ここでは行為としてとらえているようで、両国語辞典はイケズなことをする人そのものも指すように広く解釈していることがわかります。

個人的には単にいじわるというよりもっと深み? があるように感じていましたけど、どうでしょうか。また、関西方面の言葉とされていますが、万城目さん、有働さんのやりとりにあるように、大阪と京都は同じでしょうかね。

『鹿男あをによし』(万城目学、幻冬舎文庫、2010年初版、手元は2018年18刷)

「あをによし」「あおによし」、「奈良」の枕詞。「あをによし奈良の都は咲く花のにほうがごとく今盛りなり」という万葉集の歌がよく知られているところ。ということで万城目さんのこの作品の主舞台は奈良。同じ関西圏で京都、大阪もちょっと出てはくるのですが。

大学院での研究に行き詰った主人公の「おれ」は教授の勧めで、教授の旧友が経営する奈良の私立高校(女子校)に欠員補充の理科教員として急に勤めることになる。そして剣道部の顧問に。この高校は同じ学校法人の高校が京都、大阪にもあり、この3校の対抗戦で盛り上がる。剣道もその例外ではないのだが、団体戦に臨むにも部員が足りない。そこに、授業中から反抗的な態度で接してきた女子生徒が加わることになる。

ちょっと読んで「あっ、この導入部は『坊ちゃん』だよね」とピンときます。夏目漱石の『坊ちゃん』での坊ちゃんが数学教師として赴任するのは四国(松山)の中学校との違いはあります。もちろん「あをによし」では『鴨川ホルモー』のような万城目ワールドが展開されるのですが、こんなくだりがあります。

3校の対抗戦で剣道部が戦う京都の学校の剣道部の先生が「とてもきれいな人だから、先生方からマドンナって言われているんだ」と同僚から教えられた「おれ」のつぶやき。

「しかし、マドンナってあだ名もずいぶん時代がかってますね。まるで『坊ちゃん』みたいだ」

読み始めた読者は当然、坊ちゃんを思い起こすでしょうから、わざとマドンナを使い、「おれ」に「坊ちゃん」と言わせる万城目さんの工夫、いやいや深読みしすぎでしょうか。その坊ちゃんは中学校の教頭を「赤シャツ」と呼んだのですが、「あをによし」での教頭のあだ名は「リチャード」

「それってリチャード・ギア? と同じく声をひそめるおれに、藤原君はニヤニヤ顔でうなずいた。「なるほどうまいもんだね」」

こちらはだいぶ異なります。