2024.05.20
『鹿男あをによし』(万城目学、幻冬舎文庫、2010年初版、手元は2018年18刷)でも、舞台の私立女子高校が平城京跡のすぐ隣にあるなど奈良の街の特長を巧みに活かしているのは「鴨川ホルモー」などと同様です。加えて古墳発掘や三角縁神獣鏡が重要な要素になるあたりも奈良ならでは。主人公の毎朝の習慣である散歩のくだりもなかなかいいです。
「転害門の下では猫が三匹、寝そべっている。脇の立札に、この門は国宝であると書いてある。国宝に軒を借りるとはずいぶん贅沢な猫だ」
「やがて大仏池の向こうに大仏殿の鴟尾(しび)が見えてきた。朝の白い空に、こがね色の鴟尾が静かに映えて美しい」
「大仏殿の裏手には何もない原っぱがある。ここに越してきた日に散歩をしたときから、おれはこの人気ない場所が気に入っていた」
そう東大寺・大仏殿の正面参道はいつでも観光客でにぎわっていますが、少し裏に回ると築地塀が続くひっそりとした、歩くと心落ちつく場所があります。小説の舞台としていいところをおさえているなと感心したくだりでした。
「おれ」の勤務先の学校は平城京跡のすぐ隣、さすがに実在の学校ではないし、学校が建つような場所でもないのですが、ストーリーの展開上、この場所に意味があるのでこれはしょうがないか、と。
『鹿男あをによし』の文中に「生徒たちがグラウンドと呼ぶ整地された広場がある。昼休みや放課後の部活動に、生徒たちがよく使う場所だ」というくだりがあります。このあたりをイメージしているのでしょうか。