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BLOG校長ブログ

2024.05.22

綿矢りささんの「京都」①

万城目学さんの小説がおもしろく、次々と読んでしまいました。きっかけは直木賞受賞作の『八月の御所グラウンド』だったのですが、その際、芥川賞作家の綿矢りささんも京都を舞台にした自伝的な小説を書いていると書きました(5月7日付)。万城目さんの作品が先になってしまい、京都から奈良(『鹿男あをによし』)、さらに大阪(『プリンセス・トヨトミ』)と舞台が移ったわけですが、綿矢作品で京都に戻ってきた形になります。

『手のひらの京(みやこ)』(綿矢りさ、新潮文庫、2019年第3刷)

早稲田大在学中に芥川賞を受賞した綿矢さんの名前くらいは知っていたのですが、有賀健さんの『京都 未完の産業都市のゆくえ』で、綿矢さんは京都で育ち、なおかつ京都を舞台にした自伝的な小説があると知りました。

読み始めてすぐに、これは『細雪』だと思いました。『細雪』は谷崎潤一郎の代表作の一つの姉妹物語、舞台は同じ関西でも『細雪』は主に阪神間という違いはありますが。『手のひらの京』文庫本の解説によると、発表当初は「綿矢版『細雪』」などといった文学史的評価があったそうです。そこに踏み込むととても私では手に負えません。綿矢さんの自伝的小説ということなので、おそらく綿矢さんの体験、あるいは身近に感じていたのであろう京都人の「生態」、言葉が悪ければリアル京都人、京都人の本音みたいなことがでてくるところをピックアップします。

近江舞子(滋賀県大津市)にバーベキューをしにいくことについての姉妹の会話

「鴨川はバーベキュー禁止。近江舞子に行ってくる」
「えらい遠出するんやなぁ」
京都からあまり出ず、すべての用事を京都で済ませてしまうクセのついている京都人にとって、たとえ隣の県でも他県に出るとなると、遠出と感じる。

近江舞子は琵琶湖を利用した水泳場で知られているようです。琵琶湖なので「海水浴場」ではありません。

有賀さんの著作では、若い人たちが京都で暮らせないで滋賀県に引っ越してしまう、それが京都の人口減の要因の一つと分析されていましたが、滋賀県で「遠出」と言われてしまのは滋賀在住の人にとっては複雑な気持ちでしょう。

万城目さんの『鴨川ホルモー』で京都大学のサークル「青竜会」が何をするのかわからずに友人と交わした会話、「大文字山に登ったり、琵琶湖にキャンプに行ったり、結構アウトドアっぽいことをするみたい」、そして実際に行ったのが「大文字山ハイキング、嵐山バーベキュー、比叡山ドライブ、琵琶湖キャンプ」

場所と行事とに違いはありますが、バーベキュー、琵琶湖がでてきます。綿矢作品の姉妹は社会人、学校を出ても琵琶湖から離れられないのか。

京都を代表する祭り、祇園祭についてのくだり

歩道に影の少ない町、京都。高い建物が条例で建てられないため、また碁盤の目状の道の構図も関係しているのか、町を歩く人々は日傘で自分のための影を作らなくては逃げ場がないほど、日光にさらされている。

京都の街の特徴と暑さを結びつける、実に的確な描写だと思います。

「これから先は祇園祭開催による渋滞が続きます。お急ぎの方はこちらでお降りください」
渋滞がはじまったので、四条からまだまだ遠い場所でバスを降り、綾香はため息をつきながら四条通りまで歩く決意をかためる。

すでにオーバーツーリズムか。この作品の単行本発行は2016年で、この用語はまだ一般化していません。観光客がいなくても祇園祭は京都の人にとって重要な祭りなので混雑することは間違いないところ。

同じく祇園祭で

祇園祭はだれか連れといっしょに行ってこそ楽しいものだ。京都市民は大体七月初めごろからだれといっしょに行くかあたりをつけていて、運悪くあぶれたら大人しく家に引きこもる。