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BLOG校長ブログ

2024.05.23

綿矢りささんの「京都」②

綿矢りささんの京都を舞台にした自伝的な小説『手のひらの京(みやこ)』(新潮文庫)で描かれるリアル京都人、続けます。

大文字の送り火について

大文字焼きは祭りではなくお盆の儀式だ。観光客の増加により見る人が増えたが、祇園祭のようなエンターテインメント性は無い。地元の人間も夏の風物詩なのでとりあえず見に行くが、燃えているのをじっと見て、「火ィ点ける人が間違えて“大”を“犬”にせえへんかな」などと言って、十分ほど見たら家に帰ってお風呂に入る。

京都で記者仕事をしていた時、大文字を「焼き」といったら京都の人は怒る、「送り火」だと先輩から言われました。また「大」の字だけでなく五か所で火がつけられるので「五山の送り火だ」とも。しかし京都人の綿矢さんはあっさりと「大文字焼き」と書いています。

京都御苑から望む「大文字」。「大」の字は二つあって、この東山にある「大」とは別に、「左大文字」と呼ばれる「大」もあります。見た目が少し「小さい」です。この山には登山道があって誰でも登ることができます。8月16日の「送り火」の時は登山できませんが。ふもとの地域の方々が山に登り、火床に家内安全などの願いが書かれて奉納された護摩木が並べられ、火がつけられます。いわば火床という「点」がいくつもつらなって、遠くから見ると「線」になって「大」の字に見えるわけです。

この「大」と「犬」について、「えっ、ここにもあった」と驚いた一致がありました。

『京都の平熱 哲学者の都市案内』(鷲田清一、講談社、2007年)

鷲田さんは京都生まれ、京都大学を卒業し大阪大学総長などを勤めた哲学者です。朝日新聞1面の連載「折々のことば」の筆者です。私が読んだ京都関連本の中でかなり強い印象が残っている一冊で、万城目さんや綿矢さんの小説について書こうと考えた時、再読したくなったのです。そうしたら「はじめに」にあたる「人生がぜんぶあったーーきょうと206番」にこう書かれてりました。

「大文字の送り火の前日に集団で山に登って茂みに隠れ、当日大文字の火がつけられると同時にいっせいに懐中電灯をつけて「犬」文字にして市民を怒らせた学生たちがいた」

「ええーっ」でした。もちろん論文ではないので、いつのことなのか出典は何かなどは書いてなく、鷲田さんを疑うわけではないのですが本当ですか、都市伝説なのではとまだ信じられません。ただ、記憶が明確ではないのですが、学生が大文字山に登ってボヤ騒ぎを起こしたという記事を書いたように覚えているのです。もちろん、送り火の日ではないです。そうだとしたら絶対忘れませんから。

上記のように大文字山は登山道が整備されていて普段は誰でも登れます。この取材の時に登山そのものは京都の学生にとって恒例行事などと聞いたような気もするのです。京都大出身の万城目さんは小説で京都大のサークル青竜会が「大文字山にハイキング」と書いていますし。

サブタイトルの「きょうと206番」とはですが、京都市バスの206番系統のこと。京都駅前を出て反時計回りに市街地の外周部をぐるっと一周して京都駅に戻ってくる路線です。その路線に沿って京都の街を語るという体裁になっています。最近の京都のバスは外国人観光客らで大混雑しオーバーツーリズムの象徴のように語られています。この206番はどうかしら(市バス路線図で確認すると現在でも206番系統はあるようです)

『京都の平熱』の書き込みによると読んだのは2007年、調べたら講談社学術文庫に入っているようです(2013年)。