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BLOG校長ブログ

2024.06.07

「公文書館」の役割 ①――「大和ミュージアム」余話

旧日本海軍の戦艦「大和」について長々と書いてきました。そのきっかけというかキーワードの一つが「米国立公文書館」でした。大分県の市民団体が、「大和」が米軍機から攻撃を受ける場面のカラー映像を米国立公文書館の資料の中から見つけたというニュースがあり、広島県呉市の大和ミュージアムの展示物の中にも「米国立公文書館 所蔵」とクレジットのある資料がいくつもありました。公文書館についても改めて考えさせられました。

日本国内にも「大和」関連の資料は残っていたでしょうが、「大和」の沈没、終戦の1945年からの時間経過の中で、これから「大和」に関する新しい資料がどれだけでてくるのか悲観的にならざるをえません。

太平洋戦争終結が見えてきた段階で軍関係者が敗戦で責任を問われることを避けるために膨大な関係資料を焼却処分するなどしたことはよく知られています。「大和」についても同様だったでしょう。戦争の勝者と敗者という違いはあるにしても、自分たちの国のことを調べるのに外国の記録に頼るところが多いというのは、なんとも複雑な思いです。その米国立公文書館のことを調べてみて驚いたのですが1934年に設立されています。そう、日米が太平洋戦争を戦っているときにもう存在していたのです。

とはいえ、まず「公文書館」とは何かから始めないといけないでしょう。「図書館」などに比べると一般的ななじみはないでしょうが日本にも「国立公文書館」があり、都道府県などの自治体単位で「公文書館」あるいは「文書館」などの名称で設置されている例もあります。

日本の国立公文書館のウエブサイトにはこうあります(この後、米国立公文書館と両方参照しますが組織名称が長くなるので日本のそれは「北の丸」と略します。東京千代田区の北の丸に本館があります。米国の国立公文書館はワシントンDCが本拠地なので「DC」と表記します)

「国立公文書館は、国の機関で作成された膨大な公文書の中から、歴史資料として重要なものを選んで保存し、一般に公開してご利用いただくための施設です。保存されている公文書は、日本の歩みを後世に伝えるための国民共有のかけがえのない財産です」

「これらの公文書を、より多くの方にご利用いただくために、私たち国立公文書館は、国民みんなに信頼され、親しまれる施設でありたいと考えます。公文書と国立公文書館を、“国民みんなのもの”と感じていただくことができるように努めます」(北の丸)

米国の国立公文書館(DC)も考え方は同じといっていいでしょう。

「国立公文書記録管理局 (NARA) は、国の記録保管機関です。米国連邦政府が業務を行う過程で作成されたすべての文書と資料のうち、法律上または歴史的理由から非常に重要であるため、永久に保管されるのは1%~ 3%のみです。これらの貴重な記録は保存されており、家族の歴史に関する手がかりが含まれているかどうかを確認したい場合、退役軍人の軍務を証明する必要がある場合、または興味のある歴史的なトピックを調査している場合などに利用できます」(米国立公文書館のウエブサイトの自動翻訳なのでちょっとこなれない表現になっています)

「米国連邦政府が業務を行う過程で作成されたすべての文書と資料」(DC)とあり、連邦政府には米軍も当然含まれます。さらに「業務」(原文はbusiness)とありピンとこないかもしれませんが、要するに軍の業務=戦争で作成された文書、資料ということになります。作戦立案のために集められた資料も含まれるでしょう。旧日本軍の戦艦「大和」に関する偵察機の写真も該当するでしょうし、業務=実際の戦闘、その経過(成果)を記録した「大和」撃沈のようすをとらえた動画、映像も「資料」という理解ですね。

ウエブサイト(DC)のトップページをみると「軍関係の記録はこちら」という目立つ入口(バナー)が設けられており、軍関係の記録は重要視されていることもうかがえます。また「家族の歴史に関する手がかり」という記述も目をひきます。

『史料保存と文書館学』(大藤修・安藤正人著、吉川弘文館、1986年)

タイトルは「文書館」となっていますが日本国内で公文書館、文書館が少しずつできつつあった時期に、公文書館の必要性、そこで資料を扱うアーキビストの役割などについて諸外国の例を研究し、提言してきた研究者の著作です。少し古い発行ですが、国内の公文書館創設期の関係者の「熱気」も伝わってきます。こんなくだりがありました。

「この米国国立公文書館(ナショナル・アーカイブス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ)は、アメリカ合衆国連邦政府の永久保存公文書を保管し一般の利用に供している世界最大の文書館で、議事堂にほど近いワシントン中心部に立つギリシャ神殿風の壮大な建物である」

「一九八四年の秋、私は文部省在外研究員として欧米の文書館の実状を調査するためにここを訪れた。文書館などというと、せいぜい一〇人かそこらの研究員か歴史愛好者が、ひっとりと古い文書に読みふけっている光景を想像しがちだが、なかなかどうして、老若男女じつにさまざまな人々が列をなして閲覧に詰めかけているというありさまなのであった」

「史料閲覧者の中で一番多いのは自分の先祖のことを調べる一般市民で、ジ二オロジスト(家系調査家)と呼ばれ、七、八割を占めるという」
「国民の大多数が北米大陸以外からの移民や奴隷を先祖に持つ人たちであるアメリカで、自分たちの“ルーツ”探しがこれほど盛んなのはよくわかるような気がするが、ヨーロッパでも事情はそんなに変わらないらしい」

一概に欧米と日本の「公文書館」「文書館」を比べてはいけないのでしょうが、現在の米国立公文書館のウエブサイトがあえて「家族の歴史に関する手がかり」と書く理由は十分にあり、また、米国民が歴史文書にこだわる背景もうかがえると受け止めました。