04-2934-5292

MENU

BLOG校長ブログ

2024.06.18

「英連邦軍」の日本占領 ⑤

太平洋戦争敗戦後に日本を占領した連合国軍は米軍、とみなが思ってしまっていることについて、論文『占領期日本と英連邦軍――イギリス部隊の撤退政策を中心に――』を発表した愛知県立大学の奥田泰広さんはこのように書いています。

「占領期日本がアメリカとの関係のみで考えられてきたのは故なきことではない」
「アメリカはその占領政策を実施するにあたって、ダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が最大の影響力を振るうことになるが、マッカーサーはその際に本国政府の影響力をかなりの程度払いのけただけでなく、日本占領に本来的な権限を持つはずの極東委員会や対日理事会の存在も無視していった」

「そして、実際の占領政策に携わるべき占領軍についても、アメリカ以外の軍事力を軍政の領域から追いやり、日本軍の武装解除をはじめとしたごく狭い領域に閉じ込めたのである」
「この結果、戦後日本においてBCOFの存在感は極小化されることになった」

BCOFが英連邦占領軍(British Common wealth Occupation Force)のことです。

そのBCOFに関するまとまった唯一の研究ともされる『英連邦軍の日本進駐と展開』(お茶の水書房、1997年)の筆者、千田武志さん自身は1997年、著書についてこんなふうに書いています。

「私が英連邦占領軍のことを知ったのは、昭和五十三(一九七八)年十一月に防衛庁戦史部の図書館を訪れて「呉進駐関係綴」などの資料を収集したさいのことです。この資料によって、中国、四国地方はアメリカ占領軍についで二十一年二月から英連邦占領軍によって占領されたことを知ったのでした」

「日本占領の特色は、連合国といいながら事実上アメリカ一国によって単独占領され、間接統治方式が採用されたと点にあると思いこんでいた私は、英連邦占領軍の存在におどろき、そして興味を持ちました」(社会経済史学会中国四国部会会報第13号、1997年7月)

多くの人がBCOFの存在を知らなかった、占領を経験した人も忘れていたのでしょう、楽しい経験ではなかったので忘れたいということもあるでしょう、また、あえて研究対象とする人もあまりいなかったということですかね。そして千田さんは呉市の市史編纂室に勤務しながら研究を進め、オーストラリア、ニュージーランドにも出かけて現地の資料館や公文書館などで資料を集めたそうです。

千田さんはこう結んでいます。

「これまでの英連邦占領軍の解明がほとんどなされていないという認識にたって、その形成、進駐、組織と活動、朝鮮戦争との関係、日本人との交友、撤退など、総合的に解明することにつとめました。これによって、かつての私のように、事実上、日本はアメリカ一国によって単独占領されたと考える人がいくらかでも少なくなることを願っています。特に、実際に進駐していた中国・四国地方の人にとって、英連邦占領軍は、けっして忘れられた軍隊であってはならないでしょう」(明らかな誤字もあり一部手直しをしています)

千田さんの著書にたどりついたこと

呉で英連邦占領軍(BCOF)のことを知り、少し調べてみようと思って、まずはインターネットでいくつかのキーワードで検索してみる、ということになります。例えばフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「イギリス連邦占領軍」で概略はほぼ把握できるし、写真も豊富に掲載されています。

フリー百科事典についてはいろいろな意見はあるでしょうが手掛かりとしては重宝します。「手掛かり」と書きました。きちんとした研究者が書かれている項目が多くなっていると感じますが、それでも、そのまま引用するにはやはり抵抗があります。幸い、以前と比べると脚注や参照文献や論文などが丁寧に紹介されるようになっているという印象を持っています。可能な限り原典にあたりたいと考えています。

BCOFについても、そのような手順を踏んでいくなかで奥田さんの論文にぶつかり、奥田さんが「これ」と言っていた千田さんの著作を取り寄せました。奥田さんの論文まではネット上での作業で「ほぼ無料」なわけですが、改めて千田さんの労作を手にとってみると、すばらしいお仕事をされたということを実感できます。

奥田さんの論文は大学の研究紀要で発表されたものです。「紀要」は大学の学部単位、博物館・美術館など研究施設が発行する、論文などを掲載する媒体(雑誌)で読者層も限られていますし、かつては、どの紀要にどういう論文が掲載されているのかを把握することも簡単ではなく、当然気軽に読むことも困難でした。

ところが最近はウエブサイトで電子版(多くはPDFで)を公開している例が多く、大変助かります。一昔前はおそらく国会図書館にでも行かないと読めなかったでしょう。このあたりは、インターネットの効用だと素直に評価はします。

「本を読む楽しさ」を伝えたいと書き続けているブログですが、迷路をたどるようにして思わぬ一冊にたどり着く「本との出会い」も楽しいことを知ってもらえれば嬉しいです